Louis Armstrong
What A Wonderful World (1967)
さすがにこれをロックとは言わないけれども、わたしはこの曲が大好きだ。もしも死ぬ間際に「あと10曲だけ聴ける」という状況になったとしたら、この曲は間違いなく選ぶだろう。
あるいは、広大な宇宙のどこかにいる異星人に向けて、無人ロケットで届ける楽曲を選ぶ総選挙があったとしたら、わたしはこの曲に一票入れるだろう。
この曲は音楽プロデューサーのボブ・シールが、ジョージ・ダグラスという変名で書いたものだ。歌ったのは、ニューオーリンズの歌手兼トランペット奏者の通称”サッチモ”こと、ルイ・アームストロングだ。
1967年、ボブ・シールは当時ベトナムで行われていた理不尽な戦争を嘆きながら、平和な世界を夢見て、この曲を書いたという。
空に虹が架かり、人々の顔は幸せに満ちている
友人たちが「元気か?」って握手をする
君は僕の大切な人だって伝えてるんだよ赤ん坊たちが元気に泣いている
彼らの成長が楽しみだ
きっと彼らは僕よりずっと多くのことを学ぶだろう
僕は心の中で思うんだよ
なんて素晴らしい世界なんだろうって
(written by Bob Thiele, George David Weiss)
しかしデモテープを聴いたABCレコードの社長、ラリー・ニュートンはこの曲を気に入らず、ボツだと言い渡した。彼はもっとアップテンポで楽しげなものを望んだのだ。「ハロー・ドーリー!」のような。
一方、同じデモテープを聴いたルイ・アームストロングはこの曲の録音を熱望した。レコーディングは秘密裏に進められることになったが、ニュートン社長はレコーディング中のスタジオに現れ、録音をやめさせようとした。しかし最終的にニュートン社長はスタジオを追い出され、レコーディングは続行された。
レコードは完成してリリースもされたが、ニュートン社長は腹いせに、この曲の一切の宣伝を拒否したという。イギリスではシングルチャート1位となり、60万枚も売れたにも関わらず、このおたんこなすのせいで本国アメリカでは当初たったの1,000枚しか売れず、その後も全米チャートの100位にも入らなかった。
それから20年後、1987年のアメリカ映画、ロビン・ウィリアムズ主演の『グッドモーニング、ベトナム』に使われたことで、全米32位のリバイバルヒットとなった。
ベトナムの美しい村が破壊され、燃え上がり、ベトナムの人々やアメリカ人の若い兵士たちが無残に死んでいく映像とこの美しい曲との究極の対照は、わたしも強烈な印象を受けたものだった。
この曲は雄大な大自然の映像にだって合うし、普通の人々の平凡な生活のシーンにも合う。
逆に、悲惨な戦場や災害、あるいはこの世の終わりのような場面にもこの音楽は胸に突き刺さる。
すべての地球の営みに、この優しい歌はとてもよく合うのだ。
ルイ・アームストロングがこの曲をレコーディングしたのは死の3年前、66歳のときで、当時彼は重い心臓病を患っていた。
もしかすると彼は、この曲を辞世の歌に選んだのかもしれない。
↓ ロッド・スチュワートと豪華なオーケストラによるカバー。さすがの歌いっぷり。
↓ 2002年のアメリカ映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』(大傑作)のエンディングに使用された、ジョーイ・ラモーンによるパンク・カバー。彼の死の翌年にリリースされた。
(Goro)