
⭐️⭐️⭐️⭐️
Nine Inch Nails
“Pretty Hate Machine” (1989)
前年に米オハイオ州クリーヴランドで結成された、ナイン・インチ・ネイルズの1stアルバムだ。
“結成”と言っても、正式メンバーはトレント・レズナーただ一人である。トレント・レズナーが”個人事業を立ち上げた”といったほうが正しいかもしれない。
ナイン・インチ・ネイルズと言えばインダストリアル・ロックの代表格だけれども、この「インダストリアル・ロック」というのは何かと調べてみると、「工業的な機械音をイメージさせるような音楽」ということらしい。そして主に電子楽器やドラムマシンといった文明の利器を使って作られる。
工場の機械音ならまだしも、耳の穴にドリルを突き刺すような拷問マシーンや、骨ごとバキバキと粉砕する殺人マシーンを想起させるようなインダストリアル・ロックも多くて、わたしはああいうのはどうも苦手だ。
本作にも暴力的な要素はあるけれども、そこまで過激でも凶々しいものでもなく、もっと甘美で快楽的なものを想起させる、あえていえば、SMマシーンのようなイメージだ。
鞭でシバかれ、ローソクを垂らされ、滑車で吊るされ、絶叫していても、それでも音楽的なのは不思議なほどだ。リスナーに衝撃を与えたり挑発することが目的ではなく、誠実に音楽を作り、自身の心情を包み隠さず吐き出している、そんなふうに聴こえるから心を揺さぶられるのだろう。
本作は1989年10月にリリースされ、全米チャート最高位は75位ながらジワジワと売れ続け、300万枚を超えるセールスとなった。
【オリジナルCD収録曲】
1 ヘッド・ライク・ア・ホール
2 テリブル・ライ
3 ダウン・イン・イット
4 サンクティファイド
5 サムシング・アイ・キャン・ネヴァー・ハヴ
6 カインダ・アイ・ウォント・トゥ
7 シン
8 ザッツ・ホワット・アイ・ゲット
9 ジ・オンリー・タイム
10 リングフィンガー
トレント・レズナーは当時、クリーヴランドの録音スタジオでアルバイトをしていて、勤務時間外でスタッフが誰もいない時間を狙って、その設備を無断で使ってデモを制作していたという。
本作はデペッシュ・モードやプリンスなどの80年代のシンセ・ポップから、90年代のインダストリアル・ロックへと進化するその中間ぐらいに位置するような音楽性だ。後のナイン・インチ・ネイルズの作品と比較するとポップで聴きやすく、入門用としても聴けるだろう。
わたしはトレント・レズナーの声が好きだ。なんとなく、ワイルドで男前な声だけど、孤独すぎて死にそうな声にも聴こえる。
本作は、インダストリアル・ロックを90年代のメインストリームに押し上げた、最初の成功例となった。
↓ 2枚目のシングルとしてリリースされ、当時はラジオで頻繁に放送されたという「ヘッド・ライク・ア・ホール」。
↓ ピアノの美しい響きに乗せてトレント・レズナーの苦悩と孤独が炸裂する「サムシング・アイ・キャン・ネヴァー・ハヴ」。
(Goro)

