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R.E.M.
“Document” (1987)
R.E.M.を好きになるまでにはずいぶん時間がかかった。
わたしがR.E.M.を知ったのは1980年代の終わり頃のことである。いくつかCDを購入してみたものの、しかし当時のわたしがシビれていた刺激的な轟音ギター・ロックにくらべると、R.E.M.はもうひとつ刺激の少ない、「普通のロック」にしか聴こえなかったのだ。
でも、刺激にはいつか慣れるし、飽きるものだ。
轟音ギターやグランジのブームにもいいかげん辟易してきた90年代も半ばに差し掛かった頃だった。何年か遅れて92年リリースの傑作『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』を聴きながら、あれ、もしかするとえらいものをスルーし続けてたみたいだぞ、と気づき、持っていながらあまり聴いていなかった過去のアルバムをあらためて聴いてみると、その軽めのシンプルなサウンド、シンプルなメロディがなによりも心地よく、耳に残るように思えてきたのだ。ようやくR.E.M.の聴き方がわかった気がした。
R.E.M.の音楽は、日常の音楽だ。
料理を作ったり、掃除をしたり、ドライヴをしたり、昼寝をしながら聴くのにちょうどいい。眠れない夜に聴くのにぴったりな曲もある。ちょうど古いカントリーやブルースがそうだったように。
1990年代前半の轟音ギター・ロックのブームは、激辛料理ブームみたいなものだったのかもしれない。
はじめこそ、その刺激的な味わいに夢中になったものの、やがて、辛さだけを競う、味は二の次でひたすら唐辛子を山盛りにしただけの激辛料理のように、ひたすら轟音の音圧だけを競い合うような、音楽の味わいもへったくれもないおかしな方向へとエスカレートしていった頃に、わたしはだんだんと距離を置くようになったのである。
そしてご飯と味噌汁とサバの塩焼きみたいな、一生飽きることのなさそうな味わいの、R.E.M.食堂を好むようになったのだ。
斬新なものも良いし、変態なものも好きだけれども、「やっぱり普通がいちばん」と思うときもあるものだ。でも意外とその「普通のロック」がなかなか見つからなかったりする。R.E.M.はそんなときに聴きたくなる、日常生活にもよく合う「普通のロック」だ。
本作はR.E.M.が1987年9月にインディ・レーベル”IRS”からリリースした、5枚目のアルバムである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 最高級の労働歌
2 占領地へようこそ
3 マッカーシー発掘
4 ヘロン・ハウス
5 ストレンジ(ワイアーのカバー)
6 世界の終わる日
SIDE B
1 燃える愛
2 クレイジー・ワールド
3 雷鳴
4 キング・オブ・バーズ
5 秘密組合員ローカル#151
それまで、全米のカレッジ・ラジオを通じて徐々に大学生を中心とした支持層が広がっていたR.E.M.にとって、B1「燃える愛」は全米9位、全英16位と初めての全国的なヒットとなった。A6「世界の終わる日」、A1「最高級の労働歌」とヒットが続き、アルバムも全米10位まで上昇する、初のミリオンセラーとなった。
初期のフォーク・ロック的なサウンドよりも、ややハードな音作りになり、歌詞の主題も含めて、「日常」から「社会」へと少し背伸びした感じだ。それが時代の需要に一致したのだろう。
マイケル・スタイプの特長的なヴォーカルも自信と確信に満ち、この世界についてユーモアと皮肉をまじえてぶった斬るような、堂々たる歌いっぷりである。
インディーズ・レーベルからのリリースでこれほどの世界的ヒットをかっ飛ばしたアメリカのバンドをわたしは寡聞にして知らない。このブレイクをきっかけに彼らはメジャーのワーナーと契約し、この後にやってくるオルタナティヴ・ロックのムーヴメントを先導する役割を担った。
↓ 全米9位と彼らにとって初めての大ヒット曲となり、ブレイクのきっかけとなった「燃える愛」。
↓ 2枚目のシングル・カットとしてリリースされた「世界の終わる日」は初期R.E.M.の代表曲のひとつとなった。
(Goro)