80年代米オルタナ・シーンの伝説 〜ミニットメン『ダブル・ニッケルズ・オン・ザ・ダイム』(1984)【最強ロック名盤500】#312

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【最強ロック名盤500】#312
Minutemen
“Double Nickels On The Dime” (1984)

こんなマイナーなバンドの内情なんて知る由もないけれども、音を聞いて真っ先に思ったのが、「このバンドって、めっちゃ仲良いんだろうなあ」という感想だった。

3人の息がぴったり合ってるし、どの楽器もおろそかにされずに対等の存在感がある。しっかり3人でアレンジを練った感じが聞いていてわかるし、3人が向き合って笑顔で演奏しているのを想像してしまうような、生き生きとした、楽しげな演奏なのだ。聴いているこっちまで楽しくなってくる。

ミニットメンは、米カリフォルニア州のサンペドロという漁業が盛んな労働者階級の港町で1980年に結成されたバンドだ。13歳のときに好きな音楽で意気投合して一緒に楽器を始めたD・ブーン (Vo&G)とマイク・ワット (B)に、同い年のジョージ・ハーレー (Dr) が後に加わった。

本作は1984年7月に、SSTレコードからリリースされた、LP2枚組45曲収録の3rdアルバムである。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE D.

1 D.’s Car Jam/Anxious Mo-Fo
2 Theatre Is the Life of You
3 Viet Nam
4 Cohesion
5 It’s Expected I’m Gone
6 #1 Hit Song
7 Two Beads at the End
8 Do You Want New Wave or Do You Want the Truth?
9 Don’t Look Now
10 Shit from An Old Notebook
11 Nature Without Man
12 One Reporters Opinion

SIDE Mike

1 Political Song for Michael Jackson to Sing
2 Maybe Partying Will Help
3 Toadies
4 Retreat
5 Big Foist
6 God Bows to Math
7 Corona
8 Glory of Man
9 Take 5, D
10 My Heart and the Real World
11 History Lesson, Pt. 2

SIDE George

1 You Need the Glory
2 Roar of the Masses Could Be Farts
3 Mr. Robot’s Holy Orders
4 West Germany
5 Politics of Time
6 Themselves
7 Please Don’t Be Gentle with Me
8 Nothing Indeed
9 No Exchange
10 There Ain’t Shit on T.V. Tonight
11 This Ain’t No Picnic
12 Spillage

SIDE Chaff

1 Untitled Song for Latin America
2 Jesus and Tequila
3 June 16th
4 Storm in My House
5 Martin’s Story
6 Ain’t Talkin’ ‘bout Love(ヴァン・ヘイレンのカバー)
7 Doctor Wu(スティーリー・ダンのカバー)
8 Little Man with a Gun in His Hand
9 The World According to Nouns
10 Love Dance

「LP2枚組45曲収録」と聞いただけで、根が面倒くさがりのわたしなんかはもう「できれば聴きたくないなぁ」と思ってしまう。

さらには、ブラック・フラッグのグレッグ・ギンが設立したインディ・レーベルで、ハードコア・パンクの名門として名高い、SSTレコードからのリリースとなれぱ、なおさら怖気付くというものだ。

しかし、実際に聴いてみると、予想は大きく覆された。

45曲で81分、1曲平均1分47秒という短さは、猛スピードのハードコアの連続かと思いきや、速い曲はほとんどない。ディストーション・ギターもなく、うるさい曲もほぼない。

一応、左翼的な立場で社会派の歌詞を歌っているらしいが、曲のタイトルからして「大衆の叫びは屁かもしれない」「マイケル・ジャクソンが歌う政治的な歌」など、思想よりもユーモアのほうが強めで、先に書いたように三人が実に楽しそうに息を合わせて演奏していることが何よりも印象的なのだ。

1曲を除いてあとはすべて3人だけの演奏なので、ほぼ全曲、サウンドのテイストは変わらない。なのに45曲81分が、大袈裟でなく、まったく退屈な瞬間がないぐらい、ずっと聴いていられる。

曲は3人が各々書いたものを持ち寄っていて、パンク、ファンク、フォーク、カントリー、ジャズ、ラテン風など音楽性の幅が広く、ギターはコードをほとんど弾かないし、ベースは逆にコードを弾いたりメロディを弾いたりとファンキーだし、ドラムは「そう来るなら、こうだ!」みたいに実に楽しげに付き合ってるといった格好だ。彼らの演奏があまりにスリリングなので、インストだって聴いてられる。

当時のメインストリームのロックシーンではまったく彼らの名前は知られていなかったが、オルタナティヴ・シーンではオリジナリティあふれる彼らの音楽は高く評価されていた。この翌年には彼らがリスペクトしていたR.E.M.とのツアーも実現したものの、しかし、1985年12月23日に悲劇は起こった。

フロントマンのD・ブーンは、長年の恋人リンダが運転する車の後部座席で横になっていた。熱を出して体調を崩していたのだ。車はアリゾナ州の砂漠の高速道路を走っていたが、後ろの車軸が破損し、車が道路から外れてしまった。ブーンは後部ドアから投げ出され、首の骨を折って即死した。27歳だった。そう、彼もまた〈27Club〉の一員となったのだ。

このブーンの死によって、残念ながらミニットメンはそのまま解散してしまった。

↓ 比較的シンプルなパンク・ソングで人気の高い「This Ain’t No Picnic」。

↓ ベトナム戦争の悲劇について歌っているのだが、どうにも楽しげに聴こえてしまう「Viet Nam」

(Goro)