聴いて楽しいハードコア 〜フィアー『ザ・レコード』(1982)【最強ロック名盤500】#298

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⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#298
Fear
“The Record” (1982)

ロックが好きと言っても、当然ながら苦手なジャンルはある。

ヘヴィメタ、プログレなんかはわたしが苦手としているジャンルとしてよく挙げているけれども、それよりもさらに苦手なのが、いわゆるハードコア・パンクというやつだ。

道路工事の掘削機みたいなビートに、アジテーションのように叫ぶヴォーカル、音圧が強すぎて音が団子状態のバンド演奏。短い曲が次々に繰り出されて、それが全部同じに聴こえる。政治や社会を批判する過激な歌詞は、ミュージシャンというより活動家みたいだ。

うるさくて聴いてられない、というよりも、音楽的じゃなさすぎて、退屈なのだ。

それでも、どんなジャンルにも例外はいるものだ。

このフィアーという、一般的にはほとんど知られていない4人組は、ヴォーカル&ギター兼ソングライターのリー・ヴィングを中心に、1977年にロサンゼルスで結成されたバンドだ。

本作はそのフィアーが1982年5月にリリースした1stアルバム『ザ・レコード』だ。今聴いても断然面白い、時代を超えた名盤だ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 Let’s Have a War
2 Beef Boloney
3 Camarillo
4 I Don’t Care About You
5 New York’s Alright If You Like Saxophones
6 Gimme Some Action
7 Foreign Policy

SIDE B

1 We Destroy the Family
2 I Love Livin in the City
3 Disconnected
4 We Got to Get Out of This Place
5 Fresh Flesh
6 Getting the Brush
7 No More Nothing

全14曲で27分は、ラモーンズの1stと同じぐらいの感じだ。

ハードコアにしてはそこまで速くないし、曲によってスピードもバラバラだし、リズム・パターンにも変化がある。何より、ちゃんとヴォーカルは歌ってるし、バンドは巧いし、ギター・ソロだってある。気持ちいいぐらい歯切れの良いタイトな演奏で、音も団子みたいにならず、風通しの良いサウンドだ。各曲のアレンジにも工夫の跡が見て取れるし、リー・ヴィングが、アイデアが豊富でセンスのあるソングライターであることがよくわかる。

荒んだ都市生活、女性蔑視、人種問題など、攻撃的で暴力的な表現や、「戦争しよう!」「家族をぶっ壊す!」などなど、意図的に物議を醸すような歌詞はあるものの、全体的にはユーモアが強いので、活動家みたいな感じはまったくない。

ブルース・ブラザーズのジョン・ベルーシが彼らのファンだったというのもなんとなく頷ける。

レコード・デビュー前の1981年10月には、ジョン・べルーシが当時出演していた番組『サタデー・ナイト・ライヴ』に彼らを強引に出演させている。

観客席にハードコア・パンクのファンたちを招待し、フィアーに演奏させたが、熱狂した観客たちがダイブするなどして観客席や機材を破壊し、放送は途中で打ち切られ、NBCは大損害を被る結果となったという。

↓ フィアーの代表曲であり、アレックス・コックス監督の映画『レポ・マン』でも使用された「Let’s Have a War」。「戦争しようぜ、経済も潤うし、人口も減るし!」と反語的に歌う反戦歌だ。

↓ ガンズ&ローゼズのダフ・マッケイガンが「ベスト・パンク・ソング10選」にも選んだ「We Destroy the Family」。「親父もお袋もくだらない説教をやめろ! 教会も学校も嘘ばっかり! 俺は自由に生きるんだ! 俺たちは家族をぶっ壊す!」と歌う王道反体制ソングだけど、一風変わったサウンドが面白い。

(Goro)