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The Clash
“Sandinista!” (1980)
LP3枚組、36曲144分という大ボリュームで1980年12月にリリースされた超大作だ。
わたしは初めて聴いたとき、「なんじゃこりゃ…」と呆然としたものだった。
前作の『ロンドン・コーリング』が、2枚組ながら名曲揃いで聴きやすい、ロック史上の大名盤だったので、それの続編みたいなものを漠然と期待していたのだけれども、予想は大きく裏切られ、捨て曲だらけで聴きづらい、ロック史上の大迷盤に思えたからだった。
耳に残る曲もちらほらとはあるけれども、当初は『ロンドン・コーリング』を10回聴く間に、本作をようやく1回聴くかどうかという感じだった。
そんな聴き方をしていたせいか、そのうち『ロンドン・コーリング』もだんだん聴き飽きてきた頃に、逆に『サンディニスタ!』がだんだん面白くなってきたのだ。
今回、この【500】のために久しぶりに両方聴いたけれども、『ロンドン・コーリング』の内容の素晴らしさにはあらためて感動したし、『サンディニスタ!』の内容のハチャメチャぶりもまたあらためて面白く聴けたものだ。
名曲あり、迷曲もあり、レゲエもあり、ダブもあり、ラップもあり、カリプソもあり、ジャズやゴスペル風もあり、実験なのかふざけてるのかわからない曲もあり、テープを逆回転させたものもあり、子供に歌わせたセルフカバーありと、まあなんでもありのカオスのようなメチャクチャなアルバムである。でもそのカオスの中に、音楽への豊かな愛とセンスが溢れているから、聴いていて楽しめるのだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 7人の偉人
2 ヒッツヴィル U.K.
3 ジャンコ
4 イワンがG.I.ジョーに会う時
5 政府の指導者
6 老いたイングランド
SIDE B
1 叛乱ワルツ
2 ルック・ヒア
3 歪んだビート
4 誰かが殺された
5 ワン・モア・タイム
6 ワン・モア・ダブ
SIDE C
1 ライトニング・ストライクス(電光一閃!おんぼろニューヨークを直撃)
2 ロンドン塔
3 コーナー・ソウル
4 レッツ・ゴー・クレイジー
5 もしも音楽が語ることができるなら
6 ザ・サウンド・オブ・ザ・シナーズ
SIDE D
1 ポリス・オン・マイ・バック
2 ミッドナイト・ログ
3 平等
4 ザ・コール・アップ
5 サンディニスタ!(ワシントンの銃弾)
6 ブロードウェイ
SIDE E
1 ルーズ・ディス・スキン
2 チャーリー・ドント・サーフ(ナパーム弾の星)
3 メンズフォース・ヒル
4 ジャンキー・スリップ
5 キングストン・アドヴァイス
6 ストリート・パレード
SIDE F
1 ヴァージョン・シティ列車
2 リヴィング・イン・フェイム
3 シリコン・オン・サファイア
4 ヴァージョン・パードナー
5 出世のチャンス
6 シェパーズ・ディライト
シングル・カットされたのはA1「7人の偉人」(全英34位)、A2「ヒッツヴィル U.K.」(全英56位)、D4「ザ・コール・アップ」(全英40位)と、どれもヒットにはつながらなかったせいもあってか、アルバムは全英19位と、クラッシュのアルバムとしては最も低い順位にとどまった。ただしアメリカでは全米24位と、過去最高位を記録して健闘した。
それにしても、たくさん入ってるな。もう何度も聴いてるはずなのに、曲名を見てもどんなのだったか全然思い出せないものがたくさんある。聴けばわかるのだけれども、
アルバム・タイトルは、中米ニカラグアで前年に革命を成功させた社会主義政党、サンディニスタ民族解放戦線の党員たちのことだ。タイトル曲のD5「サンディニスタ!(ワシントンの銃弾)」はサンディニスタによる革命の成功を称賛しつつ、アメリカの帝国主義やソビエトの暴力的な共産主義も批判している。しかしそんな難しいことを意識して聴いたことはない。その曲調は緩やかで楽しげな、内容とえらくギャップがあるのだ。
そもそもアルバムも、全体的にそんな感じだ。歌っている内容はゴリッゴリに政治的で過激なのに、音楽的には仲間たちと賑やかにタコスパーティーでもしているぐらいの緩くて楽しいノリなのだ。
本作は3枚組LPでありながら、2枚組LPと同じ価格で販売された。
これはバンドがそう望んだためだった。もちろん製造コストが2枚組より3枚組のほうがかかるのでCBSレコードは難色を示したが、バンドが自分たちへの印税を大幅にカットすることに同意したため実現したという。日本での発売価格も3,900円と、当時の2枚組アルバムの価格と同程度で発売された。
反商業主義という信念を、その価格でも示した見せたということだろう。ほんの少しでもいいから世の中を変えたいと考えていた、クラッシュのささやかな革命だった。
↓ シングル・カットされた「7人の偉人」(全英34位)。この時代のヒップホップ的なアプローチは、白人のバンドとしてはかなり早い。
↓ ミック・ジョーンズが歌うザ・イコールズのカバー「ポリス・オン・マイ・バック」。アルバムのハイライトのひとつだ。
(Goro)