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Linda Ronstadt
“Heart Like a Wheel” (1974)
米アリゾナ州に生まれ、1969年にデビューしたリンダ・ロンシュタットは、その長いキャリアの中にオリジナル曲はほとんどなく、「あまり知られていない隠れた名曲」のカバーに特にこだわって歌い、それで大ヒットを連発したという、とてもめずらしいタイプの歌手だ。
その選曲の絶妙さもさることながら、パンチがきいていながらどこかセクシーでもある魅力的な歌声と、カントリー・ロックを基調としたサウンドで、オリジナルを遥かに凌駕する素晴らしいバージョンを生み出した。カバー曲を歌う信念や自負のようなものがあるに違いなく、
それはそれで簡単に真似のできるようなスタイルではないのだろう。
「西海岸の永遠の歌姫」とも称されたリンダは、当時の米西海岸のアーティストたち、彼女のバックバンドを務めたイーグルスをはじめ、ニール・ヤング、ジェイムズ・テイラー、ジャクソン・ブラウンなどがこぞって彼女をレコーディングに参加させたり、逆にサポートしたりしていて、どうやらミュージシャンたちの中ではアイドル的な存在でもあったようだ。あか抜けない感じのルックスと、どことなく隙だらけの印象は、父性本能をくすぐるタイプなのかもしれない。
70年代にジョニー・キャッシュがMCを務めていた音楽番組をDVDで見たことがあるけれども、あの強面のイメージのジョニー・キャッシュですら自分の番組にリンダを呼んでデュエットした時は明らかにデレデレだった。
おまけに歌い終わると彼女の頬にキスまでしている。今ならセクハラで訴えられてもおかしくないところである。
そのときの逸話だが、リンダはミニスカートにノーパンで番組に出演しようとしてジョニー・キャッシュの妻ジューンの逆鱗に触れ、「わたしの夫の番組だけにはそんな恰好で出ることは許さない!」と怒鳴りつけられて、仕方なくパンツを穿いて出演したのだそうだ。
本作は1974年11月にリリースされた、リンダ・ロンシュタットの5枚目のアルバムである。それまでアルバムチャートのトップ40に入ったことはなかったが、本作はいきなり全米1位となった、彼女の大ブレイク作である。カッコ内はオリジナル・パフォーマーで、複数のバージョンがある曲はリンダがカバーしたと思われるバージョンを選んだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 悪いあなた（スウィンギング・ブルー・ジーンズ）
2 もうおしまい（バディ・ホリー）
3 あてにならない恋（J.D.サウザー）
4 ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート（ジェイムズ・カー）
5 ハート・ライク・ア・ホイール（アンナ・マクギャリグル）
SIDE B
1 いつになったら愛されるのかしら（エヴァリー・ブラザーズ）
2 ウィリン（リトル・フィート）
3 アイ・キャント・ヘルプ・イット（ハンク・ウィリアムス）
4 キープ・ミー・フロム・ブローウィン・アウェイ（ザ・セルダム・シーン）
5 目を閉じてごらん（ジェームス・テイラー）
アルバムからは2曲の大ヒットシングルが生まれた。A1「悪いあなた」が全米1位、B1「いつになったら愛されるのかしら」が全米2位を獲得し、どちらもリンダの代表曲となった。
他にもリトル・フィートのB2「ウィリン」も素晴らしいし、バディ・ホリーのA2「もうおしまい」もいい。ラストの「目を閉じてごらん」も感動的だ。B3のハンク・ウィリアムスのカバー「アイ・キャント・ヘルプ・イット」ではグラミー賞の最優秀女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞している。
A4「ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート」はソウル・シンガーのジェイムズ・カーが原曲だが、もしかするとフライング・ブリトー・ブラザーズがカバーしたバージョンを手本にしたのかもしれない。
バックの演奏がまた素晴らしい。参加メンバーのクレジットには何十人というすごい数の西海岸の精鋭ミュージシャンたちの名前が記されているが、みんな、リンダのためならと、いくらかは鼻の下も伸ばしながら馳せ参じたのだろうなぁ。
↓ リンダが初めて全米1位に輝いた大ヒット曲「悪いあなた」。
クリント・バラード Jr.が書き、62年にディー・ディー・ワーウィックが録音、翌年にベティ・エヴェレットやスウィンギン・ブルージーンズがカバーしている。もちろん一番ヒットしたのはリンダのバージョンだ。
↓ 全米2位の大ヒットとなった「いつになったら愛されるのかしら」。
エヴァリー・ブラザーズの1960年の曲で、原曲も良いけど、リンダのバージョンのほうがやはり圧倒的に魅力的だ。
（Goro）
