jimi hendrix
National Anthem U.S.A. Star Spangled Banner (1969)
米ニューヨーク州ベセルのマックス・ヤスガー氏所有の酪農場で、1969年8月15日から18日にの3日半にかけて、ウッドストック・フェスティバルが開催された。
当初は5万人規模の有料コンサートを予定していたが、想定を大きく上回る観客が詰めかけ、広大な酪農場を柵で囲うことも、チケット売り場を設営することも困難な状況となり、開催当日になってフリーコンサートに切り替えられた。そして結果的に46万人という前代未聞の観客を集めた史上最大規模の野外コンサートとなった。
32組にのぼる出演者のうち、大トリを務めたのがジミ・ヘンドリックスだったが、雨のためにタイムテーブルの進行が大幅に遅れ、彼がジプシー・サンズ&レインボウズと共にステージに立ったのは最終日の翌朝、8月18日午前9時のことだった。ちょうど55年前の今日の、今ごろである。
この様子は世界的に大ヒットしたドキュメンタリー映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』でも見ることができるが、観客はあらかた帰ってしまっていて、残っていたのは3万人ほどだったという。演奏中に、スタッフががらんとした会場でゴミ拾いをしている様子も映し出されている。
しかしこのとき帰ってしまっていた観客たちはこの伝説的なステージを見逃したことをさぞかし後悔していることだろう。
このときの、ジミ・ヘンドリックスの「アメリカ国歌」は、あのウッドストックというロックフェスを伝説的なものとして人々の記憶に残すことに大いに貢献した、ハイライトシーンでもあった。
そのときジミ・ヘンドリックスが生み出したものは、世にもおぞましい、グロテスクな音響だった。
それは当時行われていたベトナム戦争の空爆を模し、人々が泣き叫び、逃げまどう、この世の地獄を再現してみせたように聴こえる。
この「アメリカ国歌」は、まるで善人ぶった「アメリカ」の生々しい正体である怪物が、悲鳴をあげ、咆哮をあげて、憎悪に燃えながら、そして恐怖に怯えながら、苦悶にのたうちまわる姿のようだった。まさにそれが1969年のアメリカという国のリアリティを曝け出すものだった。
わたしは16歳のときにこれを聴いてから、不快だとか、悪だとか、憎悪だとか、暴力だとか、狂気だとか、恐怖だとか、そんなネガティヴな感情のリアリティまでを追求しようとしているのがロックという音楽なんだな、と理解し、以来興味深く聴き続けてきた。
ロックミュージックはハッピーでイケイケでノリノリでオーイエーだけではないのである。
だから面白い。
(Goro)