Right Here, Right Now (1990)
ジーザス・ジョーンズは人名ではない。バンド名だ。
1989年にデビューしたイギリスのバンドである。
フロントマンでソングライターのマイク・エドワーズはルックスも良いけど才能も凄かった。
彼の創り出す音楽はロックとテクノとサンプリングとダンスミュージックを融合したミクスチャー・ロックだった。
当時は「デジタル・ロック」とも呼ばれていたが、今聴くとそこまでデジタル臭さはない。
いちばんデジタル臭く聴こえるのはドラムかもしれないけど、実はこれはドラムマシンではなく、人間が叩いている。幸か不幸かこういうドラマーなのだ。マイク・エドワーズにも「頼むからもっと人間らしく叩いてくれ」と言われたという逸話がある。
この曲は彼らの2ndアルバムに先駆けて発表されたシングルで、英国のみならず、全米チャートで2位まで上がる破格の大ヒットとなった。
ラジオで女性が「いま革命が起きている」と喋っている
ボブ・ディランが歌っていた時代、こんなことは夢だった
なあ、生きるっていいことだな
おれはこの時を待っていたんだいま、ここに、僕はいる
そしてまさにいま、ここで
歴史の呪縛から世界が立ち上がるのを
僕は見ている(written by Mike Edwards)
1989年にベルリンの壁が崩壊すると、東欧諸国が次々に民主化され、この曲をレコーディングしていた1990年5月にはソビエト連邦からリトアニアが独立を宣言し、ソ連崩壊の引き金となった。そして1991年12月にソ連は消滅し、第二次世界大戦後40年近くにわたった東西冷戦状態はひとまず解消されたのだった。
この歌はそのヨーロッパの激動の真っ只中にいることを歌ったものだろう。
いまの若者たちには実感がわかないかもしれないけれども、米国とソ連の冷戦時代というのは、いつ核戦争が起こってもおかしくない、つまりいつ地球がまるごとボンっと焼き上がって世界が終わりになってもおかしくない状況なんだと、当時の人々、つまり若い頃のわれわれは、そう認識しながら生きていたのだ。
なんとなく「21世紀なんてやってこないんだろうなあ」などと思いつつも、一生懸命働いたり、将来の夢を見たり、恋愛や子作りをしたりというのは、今思えば刹那的で虚無的な時代だったんだなあ、とあらためて思う。
そんな冷戦時代が終わって、これからどんな時代になるんだろう、と世界の未来への希望に満ちた視線でこの歌は歌われている。
いや、今は冷戦時代よりもっとヤバい状況になりつつあるよ、なんてつい言いたくなってしまうけれども、でも今の子供たちが、世界の終わりに怯えたり虚無的になったりはしてほしくないなあと祈るばかりである。
(Goro)