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The Velvet Underground
“The Velvet Underground” (1969)
1stアルバムを発表後、アンディ・ウォーホルの支配から脱し、自由に作れるようになった2nd『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』はしかし、逆に歯止めがきかなくなり、はっちゃけ過ぎて収拾がつかなくなってしまったと、後年ルー・リードは語っている。さらに制作中にリードはジョン・ケイルを脱退させてしまう。
替わって加入したダグ・ユールと共に制作された3rdアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド Ⅲ』は1969年3月にリリースされた。
ちなみにA1「キャンディ・セッズ」のヴォーカルはルー・リードかと思いきや、よく似た歌い方のダグ・ユールである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 キャンディ・セッズ
2 ホワット・ゴーズ・オン
3 サム・カインダ・ラヴ
4 ペイル・ブルー・アイズ
5 ジーザス
SIDE B
1 ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト
2 アイム・セット・フリー
3 ザッツ・ザ・ストーリー・オブ・マイ・ライフ
4 殺人ミステリー
5 アフター・アワーズ
前作で前衛的でノイジーなサウンドに偏りすぎたことの反省からか、本作は抒情的でメロディアスなA1「キャンディ・セッズ」、A4「ペイル・ブルー・アイズ」、A5「ジーザス」、あるいはヴェルヴェッツ流ロックンロールとでも言うべきA2「ホワット・ゴーズ・オン」とB1「ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト」、モーリンが歌うチャーミングなB5「アフター・アワーズ」など、聴きやすい楽曲に溢れ、あえて「音楽」に回帰することを意識したかのように思える。実験的と言えるのは朗読劇のようなB4「殺人ミステリー」ぐらいのものだ。
アルバムの原題がセルフタイトルなのも、再スタート的な思いが込められてい流のかもしれない。
1stアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』のような異様な世界観や殺伐とした空気感はないが、しかし相変わらず昼間っから大音量で聴きたいタイプのものでもなく、夜中にヘッドホンで聴くべき淫靡でダークなヴェルヴェッツらしい音楽性は堅持されている。
ある意味ヴェルヴェッツの作品中で最も「まとも」な作品とも言えるが、しかし、やはりというか、本作もまったく売れなかった。
この頃の彼らはやる気満々で、ライヴ活動も多くこなし、さらには早くも4枚目のアルバムのレコーディングを進めていたにもかかわらず、本作のセールスの不振から、レコード会社から契約を切られてしまう。
レコード会社を移籍してなんとか4枚目のアルバム『ローデッド』はリリースされたものの、売れ筋を狙った、らしくもないポップな楽曲が多い。実際この当時ルー・リードはなんとか売れるものを作ろうとしたのだと言う。しかし新しいレコード会社によるプレッシャーに耐えきれなくなり、1970年8月、ツアーの途中で失踪し、そのまま脱退してしまう。
あの世捨て人みたいな、ワイルド・サイドの住人のようなルー・リードも、普通の会社の営業課長みたいなプレッシャーに悩んでいたのだ。
あらためてロックのお仕事もラクではないなあと思う今日この頃である。
↓ 新加入のダグ・ユールが歌うきわめて静かで抒情的なオープニング・トラック「キャンディ・セッズ」。
↓ ヴェルヴェッツ流のロックンロールと言うべき「ホワット・ゴーズ・オン」。
(Goro)