絶滅寸前だった英国ロックの救世主 〜ザ・ストーン・ローゼス『ザ・ストーン・ローゼス』(1989)【最強ロック名盤500】#12

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⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#12
The Stone Roses
“The Stone Roses” (1989)

あら、いつのまにか国内盤の邦題は『ザ・ストーン・ローゼス』に変わったんだな。

わたしの若い頃は『石と薔薇』という邦題だったけれども。

まあ、べつにどっちでもいいけど、うっかり若い子に「石と薔薇がさ、、」なんて言ったりすると笑われるかもしれないから気をつけなきゃな(まあ、若い子とストーン・ローゼスの話をすることなんて一生ないだろうけれども)。

ある種の人々にとってザ・ストーン・ローゼスとは、ビートルズやセックス・ピストルズやニルヴァーナに匹敵する価値を持つ名前である。ある種の人々とは、1989年当時、絶滅の危機に瀕していた「ブリティッシュ・ロック」の奇跡の復活を目の当たりにして、感涙に咽んだ者たちのことである。わたしもそのひとりだ。

パンク~ニュー・ウェイヴがロック界を激震させた後の80年代は、ロックは相対化され、分解され、解剖され、解体され、瓦解する運命となった。先鋭的なロック・バンドが「ロックでなければなんでもいい」とまで言い放った時代だった。

1980年代、MTVから盛大に流れる世界基準のロック・ミュージックは、一見昔ながらのロックと大差ないように見えるけれども、なにかが決定的に違っていた。

そこで流れるロックは、ファンタジーであり、ファンシーであり、パロディであり、コメディのようにも見えた。わたしは好きになれなかった。そのロックには「リアリズム」というものが欠けていたのだ。

音楽における「リアリズム」というのは微妙すぎてわかりづらいだろう。わたしも説明しづらい。

しかし「ロック」と呼ばれる音楽の、その最も重要な特徴のひとつは、他の音楽以上にリアリズムを持ち合わせていたことだった。だからこそロックンロール誕生以来、若者たちは、他の音楽よりもダイレクトに心に届き、魂を揺さぶるこの音楽を、熱心に求めたのだ。

実はわたしは1989年になるまで、リアルタイムのロックをまともに聴いていなかった。

80年代のあいだ、わたしは60~70年代のロックや、クラシック音楽を聴き続けていた。リアルタイムの音楽にはわたしの好みに合うものはないと思っていたからだ。

そのわたしが89年からリアルタイムのロックを聴くようになり、やがて夢中になっていったのは、U2の『ヨシュア・トゥリー』を聴いたのをきっかけに、当時大きな話題となっていたこのストーン・ローゼスの存在を知ったことから始まったのだ。

当時の音楽雑誌はこの連中の話題でもちきりだった。極めて流行に疎いわたしの耳にまで、その名が「英国ロック奇跡の復活」という熱烈な賛辞とともに轟いてきた。

そう、たしかに、この連中の登場がなければ英国ロックはあのまま絶滅していたのかもしれない。彼らの登場がマンチェスター・ムーヴメントという新しい波を作り出し、そのまま90年代のオルタナティヴ・ロック革命へと繋がっていったのだから。

というような歴史的評価はあるものの、だからといってセックス・ピストルズやニルヴァーナのような、いかにも衝撃的で刺激的な、頬を張り飛ばされるようなものを期待すると肩透かしをくらうかもしれない。

ストーン・ローゼスは、60年代後半のブリティッシュ・ビートやサイケデリック・ロックを彷彿とさせる、ある意味古風な音楽だった。

われわれはあの頃、ごく普通に口づさめる、昔ながらのストレートなロックに飢えていたのだ。ややこしい革新性も要らなかったし、華やかなパフォーマンスも気恥ずかしいだけだった。ストーン・ローゼスの登場に対する手放しの歓迎は、ごく普通のリアルでストレートな「歌」が戻ってきたことの新鮮さ、嬉しさだった。

本作は、1989年5月にインディー・レーベル、シルヴァートーンからリリースされた、彼らの1stアルバムだ。

【オリジナルCD収録曲】

1 アイ・ウォナ・ビー・アドアード
2 シー・バングス・ザ・ドラムス
3 ウォーターフォール
4 ドント・ストップ
5 バイ・バイ・バッドマン
6 エレファント・ストーン
7 エリザベス・マイ・ディア
8 (ソング・フォー・マイ)シュガー・スパン・シスター
9 メイド・オブ・ストーン
10 シュート・ユー・ダウン
11 ディス・イズ・ザ・ワン
12 アイ・アム・ザ・レザレクション

あら、各曲の邦題もなくなったのね。

「憧れられたい」とか「僕の復活」ではないんだな、今は。なんだかちょっと寂しい気もするけれども。

今また本作を聴きながらこれを書いているけれども、聴けば聴くほどに発見があり、技術的なレベルの高さ(まあヴォーカルは置いとくとして)もさることながら、決して60年代ロックの焼き直しだけではない。サウンドの実験的な試みに加え、清冽な響きと新しい歌があるし、なによりこの完成度の高さはただ事ではない。

新人のアルバムとは思えない唯一無二の強固な世界観を持ちながら、しかし同時にいかにも新人らしい、眩しいほどの輝きに包まれたエヴァーグリーンの音楽である。

ロックの名盤は数多あれど、これほど美しい作品も滅多にないだろう。

↓ オープニングを飾る代表曲「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」。

↓ シングル・カットされ全英20位まで上昇した「メイド・オブ・ストーン」。

(Goro)

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コメント

  1. アイアイ♪ より:

    コレ、来ちゃいましたね(笑)。
    自分の全て過ぎてコメントのしようがないアルバムです。1989年の初来日公演も衝撃的で、よくある、無人島に行くなら~的アンケートにもこれ一択!というくらいに影響受けました。あのぶっといズボンは履きませんでしたが・・・
    自分が渡英したのは1990年の5月、丁度スパイクアイランドでのギグが前週に終わり、彼等が何の音沙汰もない、長~いお休みに入り始めた時期でした(涙)。その間、色んなバンドを観に行ったり、クラブに通ったり、はるばるマンチェスターまでハシエンダで遊ぶために行ったりしましたが、現地のキッズたちも合間にかかるSEやら噂バナシやらで盛り上がるばかりだったナア。