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The Rolling Stones
“Goats Head Soup” (1973)
ストーンズの名盤というと1968年から1972年までの、ジミー・ミラーがプロデュースをした傑作群、『べガーズ・バンケット』『レット・イット・ブリード』『スティッキー・フィンガーズ』『メイン・ストリートのならず者』と相場が決まっていて、昔から名盤ガイドに載っていたのも大抵そうだったし、ファンが最高の1枚を挙げるのもほとんどこの中のどれかを選ぶものだ。
しかし同じくジミー・ミラーがプロデュースしたにも関わらず、その「黄金時代」から除外されがちなのが1973年8月にリリースされた本作だ。
上記4作に比べるとややポップな要素が強く、キーボードの音が目立ち、ストーンズらしい猥雑さや凶々しさやルーツ・ミュージックの色濃さなどはややマイルドになったかなという印象は確かにある。荒っぽさや苦さを抑え、甘さと旨みを増した、マイルド・ストーンズな1枚とは言えるかもしれない。
しかしそれでも名盤と呼ぶに充分な、充実した内容である。もしもこれが、当時売れなかった無名のバンドが残した唯一のアルバムとして発掘され他ものだとしたら、それこそ「知られざる大名盤」として大騒ぎになるようなレベルである。
しかし当時はあの4大名盤の後でもあり、期待値が大き過ぎた分、否定的な評価が多かったという。甘いフォーク・バラードのような「悲しみのアンジー」が先行シングルとして大ヒットしたため、それが「ストーンズらしくない」という否定的な評価に火をつけたとも思われる。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ダンシング・ウィズ・ミスターD
2 100年前
3 夢からさめて
4 ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー (ハートブレイカー)
5 悲しみのアンジー
SIDE B
1 シルヴァー・トレイン
2 お前の愛を隠して
3 ウィンター
4 全てが音楽
5 スター・スター
「悲しみのアンジー」は全米1位、全英5位の大ヒットとなり、日本でもドラマの主題歌に使用されるなど、ストーンズらしくはないかもしれないが、世間的には比較的知られた名曲である。
ビリー・プレストンが弾くクラビネットが印象的な「ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー (ハートブレイカー)」も米国でシングル・リリースされ、全米15位のヒットとなった。
「ダンシング・ウィズ・ミスターD」は「悪魔を憐れむ歌」ほどの凶々しさはないが、それでも中毒性のある粘っこいリフが悪魔的なカッコよさだし、「ウィンター」は吐く息が白く凍えて見えるのが目に浮かぶような名バラードだし、「スター・スター」は4文字言葉を連呼する最高にストーンズらしいチャック・ベリー型ロックンロールだ。
フォークもあればダンス・ミュージックもあり、ブルースもあればポップスもあり、バラードもあればロックンロールもある、そんなストーンズの豊かな音楽性が存分に楽しめる傑作である。
尚、本作は1972年の冬に、ジャマイカの首都キングストンでレコーディングされた。ただし、本作にはレゲエの楽曲は入っていない。ストーンズがレゲエを導入するのは、もう少し先のことだ。
ちょうどその年に『ハーダー・ゼイ・カム』が公開され、ボブ・マーリィもメジャー・デビュー直前の、レゲエが全世界へと羽ばたきを始めた、革命前夜のようなジャマイカを選ぶなんてストーンズはさすがに目ざといなと思ったが、実は理由はそれだけではないらしい。
キース・リチャーズは、イギリスの鬼のような税率に嫌気がさして国を出たものの、フランスからはドラッグの問題で追い出され、アメリカはニクソンがストーンズを嫌ってビザが下りない。当時のキースを受け入れてくれるのはスイスとジャマイカぐらいしかなく、スイスは寒くて退屈だったため、最終的にジャマイカに滞在することになったという。多分だけど、ジャマイカの方がマリファナなどのドラッグが簡単に手に入るという理由もあっただろうと思う。そしてキースはレゲエも大いに気に入り、後にキースと家族はジャマイカに移住し、本格的に腰を据えることになったほどだ。
なお、本作については1年ほど前に、収録曲についても詳しく書いた記事を公開しているので、興味のある方はぜひご覧ください。→『不当に低評価されすぎた彩り豊かな音楽性の名盤【ストーンズの60年を聴き倒す】#39』
→ オープニングを飾る不気味なダンスナンバー「ダンシング・ウィズ・ミスターD」。悪魔がニヤニヤしながら腰を振るようなネバっこいグルーヴがたまらない。
→ 全米1位、全英5位の大ヒットとなった異色の名曲「アンジー」。
（Goro）
