⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
The Kinks
“The Kinks Are the Village Green Preservation Society” (1968)
「いちばんイギリスらしいロック・バンドは?」と問われたら、わたしの頭に真っ先に浮かぶのは、間違いなくキンクスだ。
ソングライターのレイ・デイヴィスは前年の1967年5月にリリースしたシングル「ウォータールー・サンセット」について「商業的に成功させることと自分が書きたい物語的な作風を上手く調和させることができた。プロとしての重要な一里塚になった」と語っている。
それで自信を深めたことがきっかけとなったのか、1968年11月にリリースされた本作を皮切りに、とり憑かれた様にコンセプト・アルバムを量産し始める。
その嚆矢となった傑作『ヴィレッジ・グリーン・プリザベイション・ソサエティ』はしかし、全英アルバムチャート47位と、キンクスにとってこれまでで最低のセールスを記録する。
信じ難いことだが、本作は当時のロックリスナーには支持されなかったのである。
それはきっと本作が、当時のロックに求められていたものとはかけ離れているものだったからなのかもしれない。それはいかにも趣味的で、商売を忘れた嗜好品のような音楽だった。
なにしろ、ビートルズがペパーズ軍曹になったり、ストーンズが悪魔を憐れんだり、ザ・フーがピンボールの魔術師になっていたころに、キンクスはと言えば古き良き英国の田園風景の美しさについて歌っていたのである。レイ・デイヴィス、当時24歳の若者がである。
なにしろアルバムの原題は「キンクスは村の緑の保存協会です」というものだ。
ナイーブで偏屈、実験性に富みながらも叙情的、そしてノスタルジックという、いかにもキンクスらしい作品だが、たしかにロックな若者たちが購入をためらうのもわからなくはない。
ここからの3年ほどはキンクスにとって、芸術的には絶頂期だが、商業的には低迷期となる。
うまくいかないものだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ
2 ウォルターを覚えているかい
3 絵本
4 ジョニー・サンダー
5 蒸気機関車の最後
6 ビッグ・スカイ
7 川辺にすわって
8 アニマル・ファーム
SIDE B
1 ヴィレッジ・グリーン
2 スターストラック
3 フェノメナル・キャット
4 友人全員
5 いたずらなアナベラ
6 モニカ
7 写しあった写真
今回久しぶりに本作を聴きなおしてみたけれども、キンクスらしい”泣きメロ”を含む、すべての曲に耳に残るフレーズがあり、豊かな「歌」が横溢する素晴らしい作品だ。
ロックの枠だけに捉われない音楽性は、あらためてレイ・デイヴィスの底知れぬ才能に驚嘆させられる。この稀有な傑作がなぜ『サージェント・ペパーズ』と同等程度に聴かれないのか、その理由がまったくわからない。
しかし本作は90年代以降に「キンクスの最高傑作」として再評価されるとじわじわと売れ続け、2018年にやっと英国で通算10万枚を突破した。
と言っても『サージェント・ペパーズ』が全世界で3,200万枚売れたのとは比べるべくもないが。
↓ イギリスのカントリー・ミュージックといった趣のオープニング・トラック「ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ」。
↓ 古き良き大英帝国を思わせる古風なアレンジと、キンクスらしい泣きメロが印象的な「ヴィレッジ・グリーン」。
(Goro)