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Sly & The Family Stone
“Stand!” (1969)
十代の頃、ドキュメンタリー映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』のビデオを見たときに、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを初めて知った。
あの映画の中で観客が一番熱狂していたのはザ・フーでもジミ・ヘンドリックスでもなく、彼らだった記憶がある。その観客を巻き込む嵐のようなパワーが強烈な印象だった。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンは、バンドのソングライターでもあるスライ・ストーンを中心に、サンフランシスコで結成された、女性を1名含む黒人5人と白人2人の人種・性別混合のバンドである。
スライ・ストーンは地元のコミュニティ・カレッジを卒業後にDJとしてラジオ局に勤め、ビートルズやジェームス・ブラウン、ボブ・ディランやローリング・ストーンズなど、人種にとらわれない音楽をオンエアしていたという。
そのチョイスにも表れている通り、スライの音楽にはロックの要素もあればR&Bの要素もあり、フォークのメッセージ性もあればファンクのダンス・ビートもあるという、ボーダーレスで真に独創的な音楽であり、史上初のミクスチャー・ロックの誕生だった。
本作は1969年5月にリリースされた、彼らの4枚目のアルバムである。全曲スライ・ストーンの作であり、カッコ内は全米シングルチャートの最高位だ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 スタンド!(22位)
2 ドント・コール・ミー・ニガー、ホワイティー
3 アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー(38位)
4 サムバディズ・ウォッチング・ユー
5 シング・ア・シンプル・ソング
SUDE B
1 エヴリデイ・ピープル(1位)
2 セックス・マシーン
3 ユー・キャン・メイク・イット・イフ・ユー・トライ
ウッドストックの映画の中で彼らのパフォーマンスが収録されていたのはA3「アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー」だったが、本作のオリジナル・バージョンはアレンジもテンポも全く違い、重心が低く、やや遅めのテンポが、不穏な空気と独特のグルーヴを醸している。わたしはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの中では、この曲がいちばん好きだ。
B1「エヴリデイ・ピープル」は彼らにとって初の全米1位となった出世作だ。
そしてベーシストのラリー・グラハムによる、ロック史上初めてエレキ・ベースのスラップ奏法が録音された曲とされている。スラップ奏法とは、ベースの弦を指で、ベン、ベン、ベイン、ベイン、などと打楽器のように叩く弾き方のことだ。
互いに多様性を認め合おうという意味で、「人間いろいろ、やり方もいろいろ」(Different strokes for different folks)」と歌い、自由・平等を標榜し、あらゆる差別や偏見を否定したカウンター・カルチャーを背景に、若者たちの共感を得た。
あれからもう50年以上が経ち、きっと当時よりはこの世界の人間関係はずいぶん改善されているのだろうけど、それでも人種間の対立はなくなっていないし、少数民族への迫害や、思想や宗教による対立なども、未だに世界のあちこちで火種は燻り続けている。残念ながらと言うのも変だが、21世紀の現代でもスライ&ザ・ファミリー・ストーンのメッセージは有効なままだ。
↓ 全米38位となった「アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー」。わたしがいちばん好きな曲だ。
↓ 全米1位となった彼らの出世作「エヴリバディ・ピープル」。
(Goro)