ジョニー・キャッシュ/アイ・ウォーク・ザ・ライン (1956)【’50s Rock Masterpiece】

Johnny Cash – I Walk The Line (1958, Vinyl) - Discogs

【50年代ロックの名曲】
Johnny Cash
I Walk the Line (1956)

今はもうこの世にはいない、カントリー界のスーパー・レジェンドだ。
わたしにとっては、カントリーとパンクの中間にいるような人だった。

ジョニー・キャッシュとクラッシュが共演したら絵になっただろうなあ。もちろんそのステージは刑務所の慰問ステージだろうけど。

エルヴィス・プレスリーと同じ、メンフィスのインディ系レーベル、サン・レコードからデビューしたジョニー・キャッシュ。しかし二人はまるでコインの裏表のようだった。一方は浮世離れしたスーパースター。そしてもう一方は、世俗でのたうち回るアウトロー。

「アイ・ウォーク・ザ・ライン」は彼の伝記映画(素晴らしい映画だ)のタイトルにもなった代表曲で、わたしもこの曲を聴いてジョニー・キャッシュを好きになった。15年ぐらい前のことだ。

ギターとベースだけのシンプルなサウンドのカッコ良さと独特の低い声に、異様に力強い説得力を感じ、そしてどこかロック的なというか、パンク的ですらある、アウトロー的な魅力も感じた。実のところ彼は「アウトロー・カントリー」と呼ばれる流派のボスみたいな人で、カントリーの王道からは、音楽性も、その生き様も、だいぶ大きくはみ出した存在だったのだ。

「きみのためにおれは真面目に生きるんだ」というような大意のラブ・ソングだけど、彼はその後、ありとあらゆるドラッグを試して薬物中毒となり、麻薬不法所持で逮捕されたり、花を摘むために他人の敷地に不法侵入して逮捕されたり、交通事故を起こして逮捕されたり、国有林を火事にして山を3つ焼き、ついでに絶滅寸前のコンドル残り53羽のうちの49羽を焼いて政府から訴えられたりと、数々の悪行を重ねた。

なかなか歌のようにはいかないものだ。

彼はアメリカ人なら誰もが知っているほどの有名アーティストだったけれども、しかしその人生は華やかで優雅なスーパースターのようなものではなく、苦難の連続であり、思い通りにならない、悩み多き人生を送る市井の人々と違わなかったように思う。

自由と無限の可能性がある国に生まれながら、金持ちでもなく、特別な才能に恵まれることもなく、アメリカンドリームなどとは縁もゆかりもない人生を、地方の町で閉塞感を感じながら暮らしている大多数の人々と同じ目線で、その人生の切実な辛苦や、ほんのささやかな喜びを共感と愛を込めて歌う、流浪の「歌うたい」のようでもある。

だからこそ、彼の歌は心に深く突き刺さり、魂を震わせるのだ。

Johnny Cash – I Walk the Line (Live in Denmark)

(Goro)