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Johnny Cash
“American IV: The Man Comes Around” (2002)
デフ・ジャム・レコードの創始者で、RUN-D.M.C.やパブリック・ネナミー、ビースティー・ボーイズやレッチリなどのプロデュースで大成功を収めたリック・ルービンは、一方でアメリカのルーツ・ミュージックに関心を示し、カントリー界の生ける伝説、ジョニー・キャッシュが彼にふさわしいレコードを作る機会を与えられていないことを不当に感じて、ドサ回りの会場まで駆けつけて、プロデュースをさせてほしいと懇願したという。
リック・ルービンの願いは叶い、1994年、62歳のジョニー・キャッシュは、アルバム『アメリカン・レコーディングス』を発表する。リック・ルービンの自宅のリビングで録音され、ジョニー・キャッシュのオリジナルが5曲、カバーが8曲という構成だった。
1950年代から歌い続ける62歳のアウトロー歌手の、山あり谷ありの人生を乗り越えてきたその生きざまが刻み込まれた歌声は深い感動を与え、ロック世代の若者たちの心をも動かし、ジャンルの枠を超えた支持を集めて大ヒットした。
反響は大きく、その年のイギリスの野外フェス、グラストンベリー・フェスティバルにも出演することとなった。
自身のキャリアの中でもこのフェスでの歓迎ぶりは大きな出来事だったとジョニー・キャッシュは語っている。観客の、彼を見つめる熱心な目はリスペクトに輝き、有名曲で観客はロック・コンサートのように飛び跳ねながら盛り上がっていたという。
『アメリカン・レコーディングス』はシリーズ化され、生前に4作、没後に2作が発表された。
カバー曲ではハンク・ウィリアムズからビートルズ、ニール・ヤング、U2、ベック、ニック・ケイヴ、デペッシュ・モード、ナイン・インチ・ネイルズに至るまで、時代もジャンルも幅広く取り上げ、アコースティック主体の最小限のアレンジのみで、曲の本質を炙り出すような生々しい歌声に驚かされるカバーばかりだった。
本作はそのシリーズの第4弾で、2002年11月にリリースされた。ジョニー・キャッシュにとって67枚目のスタジオ・アルバムであり、そして生前に発表された最後のアルバムとなった。
【オリジナルCD収録曲】カッコ内はオリジナル・パフォーマー。
1 ザ・マン・カムズ・アラウンド(ジョニー・キャッシュ)
2 ハート(ナイン・インチ・ネイルズ)
3 ギヴ・マイ・ラヴ・トゥ・ローズ(ジョニー・キャッシュ)
4 明日に架ける橋(サイモン&ガーファンクル)
5 アイ・ハング・マイ・ヘッド(スティング)
6 愛は面影の中に(ロバータ・フラック)
7 パーソナル・ジーザス(デペッシュ・モード)
8 イン・マイ・ライフ(ザ・ビートルズ)
9 サム・ホール(アメリカ民謡)
10 ダニー・ボーイ(アイルランド民謡)
11 ならず者(イーグルス)
12 泣きたいほどの淋しさだ(ハンク・ウィリアムズ)
13 ティアー・ステインド・レター(ジョニー・キャッシュ)
14 ラレドの通り(アメリカ民謡)
15 また会いましょう(ヴェラ・リン)
わたしは、このシリーズを聴くとなんだかものすごく神聖なものを聴いているような、厳かな気分になる。1955年にデビューしたジョニー・キャッシュが、まるでロックンロールのすべての歴史を見届けてきた神様のようであり、そのお気に入りのナンバーを自ら歌ってみせたかのようだ。
全盛期をとっくに過ぎ、晩年を迎えたジョニー・キャッシュの枯れつつある歌声は、波瀾万丈の人生の傷痕が刻み込まれた力強さと凄味があり、そのリアリティと存在感の大きさに、わたしは強烈な畏怖を感じる。
本作を録音した当時70歳の彼は、糖尿病や自律神経失調症を患い、眼もほとんど見えなかったという。さらには重度の肺炎で入院するなど、病魔と闘い続けた。彼の容姿は最後の数年で驚くほど変化し、エネルギッシュに闘い続けた男にも、死期が迫っているのは明らかだった。
そして本作のリリースからわずか半年後、彼の最愛の妻ジューンが死去する。
そして後を追うように、そのわずか4か月後にジョニー・キャッシュは、糖尿病による合併症によって、ジューンの元へと旅立った。
↓ ナイン・インチ・ネイルズのカバー「ハート」。このMVを見て、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーは次のように語っている。「リック・ルービンからCDが送られてきたとき、最初は単に話題作りのためのカバーなのかと思った。でもビデオを観た瞬間……言葉を失った。鳥肌が立ち、涙が溢れてきた。僕が自分の暗闇の中で書いたプライベートな曲が、彼という音楽のアイコンによって、普遍的な『老いと喪失の哀歌』に変わっていた。あの曲はもう、僕のものではない。彼のものだ」(米Alternative Press 誌インタビュー)
その年のMTVビデオ・ミュージック・アワードで最優秀撮影賞を受賞し、イギリスでは「歴代最優秀ビデオ」で第1位に選出された。わたしにとっても、この世で一番泣けるMVだ。
↓ ビートルズのカバー「イン・マイ・ライフ」。絶対に誰にも真似できないであろう、凄味のある重厚な歌声が感動的だ。
(Goro)


