Cyndi Lauper
“She’s So Unusual” (1983)
貧しい地域に住み、寄せ集めの古着をド派手にリメイクして身を包み、水たまりなんか気にもしないで路上で踊る、自由で型にはまらない誰よりも輝いてる女の子、という物語が一瞬で伝わるようなカッコいいアルバム・ジャケットだ。
80年代以外の何物でもない、チープながらキラキラポップなサウンド、しかし今聴いてみると、これはこれで面白い音だったなあとも思う。時代の空気や匂いまで甦ってくるようだ。
でも当時のわれわれが衝撃を受けたのは、やはり彼女の歌声だ。
奔放で気取らない少女のままのような愛らしさと、男にも負けていないパワフルで少々エキセントリックな魅力のヴォーカルスタイルが衝撃的だった。口を四角くして歌うのも衝撃的だった。
シンディ・ローパーは、1980年に「ブルー・エンジェル」というバンドでデビューするもまったく売れずにすぐ解散。自己破産して古着屋で働いていた30歳のシンディが二度目のチャンスを掴んだのが本作だ。
後にザ・フーターズを結成するロブ・ハイマンの全面的な協力によって制作され、1983年10月に発表したのがこのソロ・デビュー・アルバムだ。
本作からヒット曲が次々と生まれ、アルバムは全米4位、カナダで1位、日本のオリコンでも5位まで上昇する世界的ヒットとなり、まさかの800万枚を売り上げることになった。シンディ・ローパーは、30歳にしてアメリカン・ドリームを掴み、時代を象徴するポップ・アイコンとなったのだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 マネー・チェンジズ・エヴリシング(全米27位)
2 ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン(全米2位、全英2位)
3 ホエン・ユー・ワー・マイン
4 タイム・アフター・タイム(全米1位、全英3位)
SIDE B
1 シー・バップ(全米3位)
2 オール・スルー・ザ・ナイト(全米5位)
3 ウィットネス
4 アイル・キス・ユー
5 ヒーズ・ソー・アンユージュアル
6 イエー・イエー
ちなみに代表曲となったA2「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」には当初、「ハイスクールはダンステリア」という邦題が付いていて、われわれの世代にはその方がしっくりくる方が多いと思うのだけれども、その後実は、歌の内容とまったく関係のない邦題を知ったシンディが激怒し、邦題の使用をやめさせ、原題のカタカナ表記に変更したという経緯があったのである。アルバム・タイトルも発売当初は『N.Y.はダンステリア』という邦題だったけれども、これもきっと同じタイミングで使用をやめたのだろう。
80年代と言えばバブリーでお気楽な空気、派手で過激なファッション、ピコピコと電子音が賑やかしいポップな音楽、プロフェッショナルなものより素人っぽいことが共感を呼び、もてはやされた時代。そんな80年代の世界観まですべて真空パックされたようなアルバムでもある。
しかしそれらが全部そろうと、それはそれでなんだか素晴らしく個性的でハッピーな時代の、二度と戻らない青春そのものみたいで、今となってはただの、何もかもポジティヴで、夢のように楽しい音楽のようでもある。
それと同時に本作からは、チープでド派手な衣装に身を包んだ30女の、人生を賭けた本気の想いが伝わってくるのだ。
男も女も、みんな大好きだったシンディ・ローパー。
みんな大好き、なんてことは音楽にはありえないことだけど、なんだか彼女ならそれがありえるような気がするのである。
↓ シンディ・ローパーを代表する曲と言えばこの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」だ。「女の子は楽しみたいだけなの!」と歌ったのは、新時代の女性像として共感された。
↓ 全米1位、全英3位の大ヒットとなった「タイム・アフター・タイム」。多くのアーティストがカバーする、ポップ・スタンダードとなった。
(Goro)
コメント
世代ではないですが、youtubeのブルーエンジェルの音源からシンディ・ローパーの良さに目覚めました。ブルーエンジェルはまあ前時代的で(今聞くと最高にいいのですが)当時は見向きもされないだろうなーというのが何か不器用でニヤついてしまいます。
80年代の音はあまり歓迎しないのですがシンディ・ローパーだけは別って感じですね。
かの「We are the world」は完全にシンディが空気を持っていっている気がするのですが贔屓目からくるものでしょうか。
デビューまでの苦労なども含めて、愛される特異なキャラクターは惹かれてしまいます。
ブルー・エンジェルは前時代的とはいえ気持ちの良い好感の持てる音ですね。
でもそれよりさらに前時代的なのがあのアルバム・ジャケットですね。どう見ても売れそうに思えない(笑)
『シーズ・ソー・アンユージュアル』のあの一度見たら忘れられないジャケットとはえらい違いです。