⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Pink Floyd
“The Dark Side of The Moon” (1973)
わたしがピンク・フロイドを好きになったのは30代前半の頃と、わりと遅かった。
20代の頃、あれだけ新旧のロックを聴きまくったのに、なぜかピンク・フロイドは避けてきたのだった。
いや「なぜか」なんてしらばっくれることもない。理由ははっきりしている。
セックス・ピストルズのジョニー・ロットンが「I hate Pink Floyd」と書かれたTシャツを着たこともよく知られるように、ロンドン・パンクは、複雑化・肥大化して大仰で難解な代物と化したブリティッシュ・ロックを否定するところから始まっていた。ピンク・フロイドは商業的にも大成功したその最たる標的だったのだ。
わたしはパンク側の戦士を自認していたので、そんな敵陣の音楽など聴いてなるものかと思っていたのだ。
若い頃はすぐそういうのに洗脳される。
カッコいい人の意見をさも自分の意見のように拝借して、自分もカッコ良くなったかのように錯覚しているものだ。
しかもわたしがパンクに夢中になっていたのは、パンク・ムーヴメントがすっかり終わって十年も経った頃だったというのに。
そんなわたしも30を過ぎた頃にはようやく洗脳も解け、音楽なんてどれもただの音楽だ、と当たり前のことに気づき、アバも聴けばピンク・フロイドも聴くようになったのである。
わたしはそもそも、単に耳で聴くだけの音楽になんか難解もクソもないと思っているので、なんだかよくわからなくて面白くないとしたらそれは自分の体質に合わないか、単なる失敗作なのかだと思っている。
『狂気』は陰鬱ではあるが、ピンク・フロイドのアルバムとしては最も聴きやすいアルバムだと思う。メロディがくっきりしているし、エモーショナルだし、カッコいいギター・ソロもちゃんとある。誰もが言うだろうけど、わたしもやはり本作がピンク・フロイドの最高傑作だと思っている。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 スピーク・トゥ・ミー
2 生命の息吹き
3 走り回って
4 タイム
5 虚空のスキャット
SIDE B
1 マネー
2 アス・アンド・ゼム
3 望みの色を
4 狂人は心に
5 狂気日食
アルバムは全米1位、全英2位、日本でもオリコン2位と世界的なヒットとなり、5,000万枚を売り上げるメガ・ヒットとなった。
B1「マネー」はアメリカでシングル・カットされ、全米13位のヒットとなった。しかしレコード会社の独断でシングル・カットしたうえ、中間のギター・ソロもカットしており、メンバーは激怒したという。ちなみに、イントロの「チーン、ジャラジャラ」というレジスターの効果音は、ドラマーのニック・メイスンが小銭に紐の輪に通してジャラジャラとやって録音したもので、このテープを手作業で切り貼りして編集し、完成までになんと30日もかかったという。
わたしのいちばん好きな曲は、ギターのデヴィッド・ギルモアとキーボードのリチャード・ライトがヴォーカルを取る「タイム」だ。歌メロもいいし、ギルモアのギター・ソロがまた最高だ。イントロがずいぶん長くてなかなか始まらないのが焦ったいけれども、その分、ギルモアのいきなりどやしつけるような歌が始まったときのカッコ良さといったらない。
ちなみに、レコーディング・エンジニアとしてクレジットされているクリス・トーマスは、この4年後にセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!』のプロデューサーを務めて高い評価を得た人だ。若い無知なわたしは何も知らなかったが、ちゃんとピンク・フロイドとセックス・ピストルズは繋がっていたのである。
プログレという決してとっつきやすくもなく、商業主義のカケラもない音楽作品が世界中でメガ・ヒットとなり、ロック史上最も売れたアルバムとなったのは驚きを通り越して笑ってしまうが、それは本作が数多あるロック・アルバムの中でも唯一無二のオリジナリティを持つ作品だったからだろう。
実験的な試みはしていても、決して聴きにくくはない。
わけのわからない前衛音楽ではなく、創造的で音楽的でユーモラスでもある、誠実なロック・アルバムの名盤だ。
↓ 全米13位のヒットとなった「マネー」。ロジャー・ウォーターズが書いた曲で、ピンク・フロイドの最も有名な曲だ。
↓ これも彼らの代表曲として知られる「タイム」。ギルモア贔屓のわたしには、彼のヴォーカルとギターが素晴らしい、最高の曲だ。
(Goro)
コメント
名盤ランキングによく登場するので聴いてみましたが聴き良かったです。ピストルズとの関係は意外でした。懐の深いロック記事まだまだ楽しみにしてます。
サカモトさん、コメントありがとうございます!
「懐の深いロック記事」なんて、過分なお褒めの言葉をありがとうございます。
思ったことをできるだけ正直に、ありのままに書くことで楽しんでもらえるかなと思いながら書いています。
これからもよろしくお願いします。