どんなバンドかと訊かれると簡単に説明できなくて困るのがブロンディだ。
ニューヨーク・パンクの一派と共にCBGBなど地元のクラブなどに出演していたブロンディは、1976年にデビューする。
しかし彼らの音楽性はパンクとは言い難いし、デビュー時、ヴォーカルのデボラ・ハリーはすでに31歳と、すでにだいぶお姉さまだった。
1982年に解散するまでの6年間で、彼らは6枚のアルバムと多くのシングル・ヒットを放ったが、それらの楽曲は、50年代のオールディーズ、60年代ポップス、ガレージ・ロック、ディスコ、シャンソン、レゲエ、カリプソ、ファンク、ラップと変幻自在で、類型を模倣しながらも類型からの逸脱を続け、常識を覆していったバンドだった。
彼らの〈ポップス〉からは、完璧なのにどこかウソっぽさも感じる。
それが彼ら流の〈ロック〉なのだろうけど。
高度な知識と技能を備えたシェフたちと、場違いな商売女風の美人ウェイトレスがいる下町の飲食店のような。
ところてんからジャークチキンまで、多国籍の料理を食べやすくアレンジした、実に美味くてインスタ映えもする料理を出す、ミシュランひとつ星の知る人ぞ知るお店のようなバンドだ。
それでいて値段は庶民的なので、若者のデートにぴったりだ。
ブロンディがその実績のわりに今ひとつ評価されていないように感じるのは、彼らがやはり規格外で、どう評価したらいいかわからないからだろう。
彼らはポップス・バンドではなく、ウソののポップスやらレゲエやらディスコやらなんやらかんやらを創造した、オリジナリティあふれるロック・バンドなのである。
以下は、わたしが愛するブロンディの至極の名曲ベストテンです。
X Offender
ブロンディのデビュー・シングル。
もちろん、チャートなんかにはカスリもしなかったけれども、1976年でこのサウンドや、クールなたたずまいはかなり先を行った、80年代ニューウェイヴの先駆者のようだ。
やっぱり新しかったんだな、ブロンディは。
デボラ・ハリーのヴォーカルも、80年代に流行した「ヘタウマ」を先取りしていた。
Picture This
大ブレイクとなった1978年の名盤3rd『恋の平行線(Parallel Lines)』からの最初のシングルで、全英12位のヒットとなった。アルバムは全米6位、全英1位。
落ち着いたオールド・ポップスかと思わせといて、サビのグワーッてアゲてくるメロディが変態的で素晴らしい。
Denis
2ndアルバム『囁きのブロンディ(Plastic Letters)』からのシングルで、全英2位となった、ブロンディにとって初めてのヒット曲。これが次作での大ブレイクへと繋がった。
オリジナルはドゥワップ・グループ、ランディ&ザ・レインボウズの1963年のヒット曲。
なんでも自分流に変えてしまうデボラ・ハリーのヴォーカルのクセの強力さと、バンドのセンスの良さをあらためて感じるカバーだ。
Hanging on the Telephone
『恋の平行線(Parallel Lines)』のオープニングを飾る曲。シングルとして全英5位のヒットとなった。
原曲は、1974年にデビューしたもののまったく売れず、このシングル1枚を発表しただけで解散したL.A.のパワー・ポップ・バンド、ザ・ナーヴスのカバーだ。
One Way or Another
攻撃的かつユーモラスでもある、彼らの最もパンク的なシングル。全米24位。
デボラ・ハリーのベスト・ヴォーカルのひとつだと思う。
Heart of Glass
1977年末の映画『サタデーナイトフィーバー』の大ヒットからの、世界的なディスコ・ブームの中で、ロック・アーティストやロック・ファンはディスコ・ミュージックを嫌悪・否定したものだけれど、そのブームの真っただ中にあっさりとディスコ・ビートを取り入れたこの曲で、全米1位、全英1位を獲得した。
そのこだわりのなさが逆にクールでカッコい良かった。
Sunday Girl
『恋の平行線』からのシングルで、全英1位のヒットとなった。
60年代のヒット・ポップスの完璧なニセモノみたいで、わたしの大好物だ。
当時、小学生のわたしが最初に好きになった洋楽のひとつだった。
The Tide Is High
5枚目のアルバム『オートアメリカン(Autoamerican)』からのシングルで、全米1位、全英1位の大ヒットとなった。
このカリプソ風の曲は、「どんなにムズかしくても、あなたのNo.1になるまであきらめないわ」と、陽気な調子で女の執念を歌っている。
原曲はジャマイカのコーラス・トリオ、ザ・パラゴンズによる1967年のレゲエ・ナンバー。
Dreaming
4枚目のアルバム『恋のハートビート(Eat to the Beat)』からのシングルで、全米27位、全英2位のヒット。
こんな、黙っててもヒットするようなポップでキャッチーな楽曲に、あえて気違いじみたドラムを入れてくるあたりがブロンディの真骨頂だ。
Call Me
1980年の米映画『アメリカン・ジゴロ』の主題曲に使用されたこの曲は、デボラ・ハリーと音楽監督ジョルジオ・モロダーによって書かれたウソ臭いほど完璧な名曲だ。全米1位、全英1位。
磨き上げられためちゃくちゃカッコいい合成皮革のバッグみたいな、これぞブロンディという魅力全開のナンバー。
デボラ・ハリーの一世一代のヴォーカルも最高だ。
入門用にブロンディのアルバムを最初に聴くなら、『グレイテスト・ヒッツ』がお薦めだ。ここで選んだ10曲もすべて収録されている。
以上、ブロンディ【名曲ベストテン】でした。
(by goro)