
⭐️⭐️⭐️⭐️
Stereolab
“Emperor Tomato Ketchup” (1996)
ステレオラブは、英ロンドンで結成された、ポップでユーモラスでアヴァンギャルドなバンドだ。彼らのその独特の音楽は「ポスト・ロック」と呼ばれた。
ポスト・モダンにしろ、ポスト・パンクにしろ、モダンやパンクが行き詰まってのその後の、という意味だったので、この場合はロックが行き詰まっているということになる。
たしかに当時は、米国のオルタナティヴ・ロックもすっかり下火になり、英国のブリット・ポップも弱火になりつつあった頃で、ロックはもう何度も原点還りを繰り返して、擦られ尽くした感はあったのだ。
なのでわたしは「ポスト・ロック」という言葉にはどこか「ロックが終わっちゃった」みたいな敗北感と哀愁を感じていたのだが、しかし本作を実際に聴いてみると、未来的で異質な響きながら明るく軽やかで、そんな敗北感や哀愁のイメージは一切なかった。
本作は彼らの4thアルバムで、1996年3月にリリースされた。タイトルは、寺山修司が監督した1970年の映画『トマトケチャップ皇帝』から取られている。
【オリジナルCD収録曲】
1 メトロノミック・アンダーグラウンド
2 キベレーの幻想
3 パーコレーター
4 レ・イペール・サウンド
5 スパーク・プラグ
6 OLV 26
7 ノイズ・オブ・カーペット
8 トゥモロウ・イズ・オールレディ・ヒア
9 エンペラー・トマト・ケチャップ
10 聖なる怪物
11 モトローラー・スキャラトロン
12 スロウ・ファースト・ヘイゼル
13 アノニマス・コレクティヴ
面白い。楽しい。そして、カワイイ。
60〜70年代の古いシンセサイザーの温かみのあるレトロな響きを使い、淡々と繰り返されるミニマルなリズムに乗せて、女性ヴォーカリストがフレンチ・ポップ風のドリーミィなメロディを無感情に歌うかと思えば、バンドが入ってきて熱く盛り上げたりもする。
フランス人ヴォーカリストのレティシア・サディエールは英語とフランス語を織り交ぜて、ときにはマルクス主義など政治的・社会的なテーマなど、尖ったことをクールな声でポップに歌うギャップが面白い。
それにしてもまあよくこんな、歌手にとっては歌い甲斐がまったく無さそうな、抑揚の少ないフレーズを延々と繰り返し歌っていられるものだ。マライア・キャリーならきっと耐えられないだろう。
なにしろ突然変異みたいな変わったアルバムだけれども、それでもバンドからはやはりポップを目指し、ロックンロールを楽しむ感覚がちゃんと伝わってくる。
なので、彼らは決してロックを終わらせようとしたわけではなく、ロックの可能性を拡げ、より多様化させていこうと、ひたむきで研究熱心な人たちなのである。
↓ チープな電子音とクラシカルなストリングスを競演させたアレンジが面白い「キベレーの幻想」。途中からドラムとベースも熱を帯びて、ミニマルなリズムの渦に飲み込まれていく。
↓ クラウト・ロック風のモータリック・ビート(4/4拍子の機械的な反復ビート)を使いながらもポップに仕上げた、ステレオラブらしい人気曲のひとつ「レ・イペール・サウンド」。
(Goro)