享楽的で刹那的なグルーヴ 〜ハッピー・マンデーズ『ピルズ・ン・スリルズ・アンド・ベリーエイクス』(1990)【最強ロック名盤500】#22

Pills 'n' Thrills.. -Hq- [Analog]

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#22
Happy Mondays
“Pills ‘n’ Thrills and Bellyaches” (1990)

ハッピー・マンデーズはイギリスの工業都市、マンチェスターで結成されたバンドだ。1987年にデビューし、93年に解散した。

当時のマンチェスターの平均年収は、英国全体のそれより2割少なく、生活保護受給者の数は英国平均の2倍だったそうだ。

低所得者層の多い街ということと関係があるのかないのか、これまでに多くのロック・バンドを輩出してきた。バズコックス、ジョイ・ディヴィジョン、ザ・スミス、ストーン・ローゼス、インスパイラル・カーペッツ、そしてオアシスなどなど。みんな一癖も二癖もあるバンドばかりだ。

オアシスのノエル・ギャラガーによれば、「マンチェスターで大人になるってことは、サッカー選手になれなければ、工場で働くか、ドラッグの売人になるか、ミュージシャンになるかだ」ということらしい。

80年代末頃のマンチェスターは、エクスタシー(MDMA)などのドラッグと「アシッドハウス」と呼ばれるダンスミュージックが大流行していた。

その享楽的なレイヴ・カルチャーの影響を受け、80年代の後半ににはもはや滅びつつあるかのように見えたブリティッシユ・ロックは、ダンス・ミュージックとの融合という禁じ手を使って奇跡の復活を遂げたのであった。

狂ったマンチェスターの意味で〈マッドチェスター〉と呼ばれたそのムーヴメントで、ブレイクしたアーティストには、ザ・ストーン・ローゼス、インスパイラル・カーペッツ、ジェイムズなどがいるが、その代表格であり、良い意味でも悪い意味でも(たぶん悪い意味だが)、最もマッドチェスターを体現していたのが、このハッピー・マンデーズである。

その享楽的で刹那的なグルーヴは、できれば昨日のことも思い出したくないし明日のことも考えたくない、当時の日本の低所得者層の代表格であったわたしにとってのささやかな熱狂でもあった。

本作は1990年11月にリリースされた3rdアルバムだ。ハッピー・マンデーズの最高傑作である。

【オリジナルCD収録曲】

1 キンキィ・アフロ
2 ゴッズ・コップ
3 ドノヴァン
4 グランドバッグズ・フューネラル
5 ルーズ・フィット
6 デニス・アンド・ロイス
7 ボブズ・ユア・アンクル
8 ステップ・オン
9 ホリデイ
10 ハーモニー

ロック的なギター・リフを中心にした楽曲はどれもよくできているし、強いベースに牽引されたファンク風のグルーヴは強靭だ。

アルバムは全英4位の大ヒットとなり、シングル・カットされた「キンキー・アフロ」は全英5位、米オルタナチャート1位を獲得した。

下手くそだけどリアル失業者風のヴォーカルに、力強いゴスペル風のコーラスが被さる。ロックとダンスミュージックの融合の、おそらく最良の成功例のひとつだ。

しかし、それにしてもだ、、、

うわあ。
恥ずかしいPVだな。

あんまりなにもできなさそうなバンドと、もっとなんにもできない美女たち。
アホっぽくて、ひどいもんだ。

とは言えべつに今さらそれに気づいたわけでもない。
ハッピー・マンデーズはもう初めからアホだし、くだらないのだ。ヤク中だし。

でもくだらない音楽でめいっぱい楽しんでいた頃のくだらない自分を思い出すと懐かしい。アホになるのも時には悪くない。アホになりたいときにはもってこいの音楽だった。

たぶんマンチェスターと同じくらい退屈な、日本の地方都市に住むわたしは、夜中に部屋でヘッドホンをつけて酒を呑みながら、机上の熱狂と脳内ダンスに酔っては眠る日々だったのである。

↓ 90年3月にシングルとしてリリースされた「ステップ・オン」は全英5位、米オルタナチャート9位のヒットとなった。南アフリカのアーティスト、ジョン・コンゴスが1971年に発表した曲「He’s Gonna Step on You Again」のカバーだ。

(Goro)

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