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Willie Nelson
“Stardust” (1978)
絶品、というほかない。
普段は二郎系ラーメンや激辛中華、特盛牛丼やビッグ・マックなどを好んで食べているわたしが、初めて高級懐石料理の美味に震えたような、そんな気分である。
本作は、アウトロー・カントリーのレジェンド、ウィリー・ネルソンが、何を思ったかスタンダード・ポップスを歌ったアルバムである。
常識を覆したその3年前のアルバム『赤毛のよそもの』が大成功を収めたことで、コロムビア・レコードはネルソンの好きなようにレコードを作らせることにしたものの、「アウトロー・カントリー」の看板の真逆を行くような、お上品なポップ・スタンダード集を録音するらしいと聞いたときはさすがのコロムビアの幹部たちも当惑したという。
しかしレコード会社の心配をよそに、1978年4月にリリースされた本作は、全米30位、米カントリー・チャート1位を記録し、その後2年にわたってチャートに居座るロングセラーとなり、500万枚を超えるセールスを記録した。
本作の成功によって、ウィリー・ネルソンはカントリー界で最も有名な歌手のひとりから、アメリカ合衆国で最も重要な歌手のひとりへと格上げされることとなった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 スターダスト
2 我が心のジョージア
3 ブルー・スカイ
4 オール・オブ・ミー
5 アンチェインド・メロディー
SIDE B
1 セプテンバー・ソング
2 明るい表通りで
3 ヴァーモントの月
4 ドント・ゲットアラウンド・マッチ・エニモア
5 やさしき伴侶を
ボブ・ディランのスタンダード集にも退屈したし、フランク・シナトラのアルバムなど聴くに堪えなかったわたしのようなものが、一度聴いただけでかくも魅了されてしまった本作は、ウィリー・ネルソンの素晴らしい歌唱はもちろんのこと、それに勝るとも劣らない、ブッカー・T・ジョーンズによる絶品アレンジとプロデュースの手腕に拠るところもまた大きいと思う。
抑制されたシンプルなアレンジにもかかわらず、ここぞというときに出てくるウィリー・ネルソンのガット・ギターによる絶品ソロや、不意に現れるこれまた絶品のハーモニカやピアノがまた強い印象を与える。とかく大袈裟でもっさりした感じになりがちなスタンダード集とは真逆の、瑞々しいアレンジの勝利であり、個性的なネルソンの声を美しく際立たせている。退屈などする隙も与えず、あっという間に聴き終えてしまう。
若い頃はロックみたいな激しい音楽を好んだにも関わらず、年を取ると演歌のようなものが心に沁みたりする、そういう年にわたしもなったのかと思ったが、繰り返し聴くうちにどうやらそんな陳腐なことではないなという考えに至った。
これはもう、ただただ本作の歌唱とアレンジが奇跡のような「絶品」であり、時代も世代も超えて魅了する作品であるということに尽きるのである。
↓ 米カントリー・チャート1位を記録し、その年のグラミー賞最優秀男性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞した「我が心のジョージア」。間奏のハーモニカもまた絶品。
↓ シングル・カットされ、米カントリー・チャート1位のヒットとなった「ブルー・スカイ」。
(Goro)