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U2
“WAR” (1983)
あらためてこの時代のロックを聴いてみると、サービス精神が旺盛すぎる産業ロックや、その真逆のストイックすぎて怖いポスト・パンク、暗黒すぎるゴス・ロック、シンセに頼りすぎのピコピコ・ロックに、芝居がかったヘヴィ・メタルや、もはやどこが音楽なのかわからない高速ハードコアなど、「もう普通のロックは死んだんか!」と言いたくなるほど千姿万態、異形異類の様相を呈している。
その混沌の中からついに、ロックのど真ん中を正面突破してきたのが、このU2だった。
彼らはアイルランドのバンドだが、混沌とした当時のロック・シーンから少し離れた辺境で独自の進化を遂げたのが逆に良かったのかもしれない。
尖りまくった4人の個性、メッセージ性の強い歌詞、強い意志が感じられる演奏、何よりリアルで鮮烈なサウンドは、待ち侘びたロック・シーンの新たな主役がようやく登場したような喜びを感じるほどだった。待ってました!と。
本作は1983年2月にリリースされた、U2の3rdアルバムである。全英チャートではマイケル・ジャクソンの『スリラー』を蹴落として1位に上り詰め、全米チャートでも12位まで上昇した、U2の大ブレイク作である。前作が商業的に失敗し、これ以上バンドを続けることにメンバーたちも疑問を抱いていた時期での大逆転劇だった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 サンデイ・ブラッディ・サンデイ
2 セカンド
3 ニュー・イヤーズ・デイ
4 ライク・ア・ソング
5 ドラウニング・マン
SIDE B
1 ザ・レフュジー
2 トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン
3 レッド・ライト
4 サレンダー
5 40
シングル・カットされたA3「ニュー・イヤーズ・デイ」がアイルランドで2位と全英10位、B2「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」もアイルランド2位、全英18位と、U2にとってそれまでのチャート最高位を記録するヒットとなった。
しかしなんと言ってもこの本作を強烈に印象づけているのは、オープニングの「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」だろう。
「郵便局のマーチングバンドにいた経験が活かせた」と得意げに語るドラム担当のラリーは、本作の裏のMVPとも言えるだろう。
このバタバタしたドラムが無かったら、「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」はもっと魅力の乏しいものになっていただろうし、他の何曲かもやはり彼の自由奔放なドラムが他のパート、ギターやベースやヴァイオリンやヴォーカルの熱狂を引き出しているようにも感じる。
「サンデー・ブラッディ・サンデー」は、1972年1月に北アイルランドで起きた惨劇、デモ行進をしていた丸腰の市民たちをイギリス軍が銃撃し、14人が死亡、13人が負傷した「血の日曜日」と呼ばれる実際の事件について歌われている。
信じられないニュースだけど、目を閉じたって消えやしない
多くの人の血が流れた日曜日
たくさんの人が死んだけど、誰が勝者なのか教えてくれ
血走った眼差しで涙を拭い去れ
僕らには関わりのないことかもしれない
でも僕たちが食べたり飲んだりしているあいだに、また明日も人々が死んでいく
本当の闘いは始まったばかりだ(written by U2)
このシリアスなメッセージ性もU2というバンドのイメージを決定づけた感もある。当時のチャラついたロックシーンにうんざりしていたわたしは、「ロックバンドなのに、なんてマジメな人たちなんだ!」と思って、好感をもったのだった。骨のある田舎者がチャラい都会人を圧倒し、ねじ伏せたようで痛快だった。
それ以来、ずっと好きなバンドだ。
↓ オープニングを飾る、強烈なインパクトの「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」。
↓ U2にとって初めての世界的ヒットとなった「ニュー・イヤーズ・デイ」。
(Goro)