Roy Orbison
You Got It (1989)
若い頃はその魅力がよくわからなかったけれども、年をとってからその音楽にとても魅了されるようになったのがこのロイ・オービソンだ。
彼の楽曲は、とてもオーソドックスなポップスやロックンロールだったり、それを実験的なほどにひねりまくってたり、古典的でありながら1周回って感動的だったりと、その奥の深さが面白い。
そしてなにより「ヴェルヴェット・ヴォイス」と評された、あの声だろう。
彼の声の魅力は唯一無二のものだ。この滑らかで、どこまででも届きそうなのびやかな声を聴く感動と快感は名状し難い。彼はただ歌うだけでわれわれに感動を与えてくれる、天使のような存在とも言える。
しかし、彼の人生は幸福なものとは言い難かった。
エルヴィス・プレスリーやジョニー・キャッシュ、チャック・ベリーなど、ロックンロールの開祖らと同じ、彼もまた1955年デビュー組だ。
60年代前半まではヒット曲を連発するなど順風満帆だったが、1966年に彼の妻がオートバイ事故で死亡、そして2年後には火事で2人の息子を亡くすという度重なる悲劇に見舞われた。そしてその後、70~80年代はヒット曲にも恵まれなかった。
しかし1988年、ボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、トム・ペティ、ジェフ・リンとともに、〈トラヴェリング・ウィルベリーズ〉というバンドを組んでアルバムをリリースし、これが世界的に大ヒットした。バンド内で大きな存在感を示した彼にもあらためて広く評価と注目が集まり、復活の兆しが見えていた。
なのに。
それからわずか2か月後の1988年12月6日、ロイ・オービソンは心筋梗塞のため急死してしまう。
まだ52歳の若さだった。
今回選んだこの「ユー・ガット・イット」は、彼が死の直前にレコーディングしていたソロ・アルバムからのシングルで、彼の死から1か月後に発売されたものだ。
この曲は世界各国でトップ10入りするなど、大ヒットした。
ヒットしたのは彼の死を悼んでということもあったのだろうが、それを抜きにしてもこの曲は素晴らしい。
わたしはそんな背景も知らずにたまたま聴いたのだけど、聴いている途中でノドのあたりがぎゅーっとしめつけられるような、なにか感極まるような、込み上げてくるようなものがあった。そんなことは滅多にあることではないので、自分でも驚いたことをよく覚えている。
それがきっかけでわたしはロイ・オービソンを聴きはじめたのだ。なので、今でも彼の曲の中では、この曲がいちばん好きだ。
公式のMVには、死後にリリースされた曲にも関わらず、歌っている映像があることが意外だった。
調べてみると、死のわずか半月前、ベルギーでのTV出演時の映像を使って制作されたものらしい。まだアルバムの制作中に、ひと足早く新曲を披露したのだろう。自信作だったに違いない。
そして、世界で唯一、この曲がチャート1位に輝いたのもこのベルギーだった。
ロイ・オービソンを愛した、ベルギーの民に永遠の幸あれ。
(Goro)