金属缶に格納された超重量級ロック 〜パブリック・イメージ・リミテッド『メタル・ボックス』(1979)【最強ロック名盤500】#277

メタル・ボックス<缶ケース仕様>

⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#277
Public Image Ltd.
“Metal Box” (1979)

セックス・ピストルズでロック・シーンを大炎上させたジョン・ライドンが、今度はこの『メタル・ボックス』で、シーンを凍り付かせた。

ロックにはすでに地下階アンダーグラウンドもあったけれど、さらにその下の、下水が足元を流れる階層にまで降り立ったような、限りなく深く、暗く、冷たい、前代未聞のサウンドが、まるっきり地雷のような金属製ケースに収められて平穏な社会に送り込まれたのだ。

ベースは地響きを立てるほどに強く、重く、ギターは空気を切り裂くように金切り声を上げ、ヴォーカルは地下隧道に反響するような声で、呪詛を唱えるかのようだ。

決して楽しい音楽ではないが、だれも思い描いたことのなかった奇妙な音楽、ロックが行き着いた末の最終形態のようであり、しかし新しいロックの始まりでもあるような革新性も間違いなくあった。

ジョン・ライドンはのちにこう語っている。「『メタル・ボックス』は俺たちの、“音楽で革命を起こす試み”だった。パンクの使い古されたスタイルを壊して、新しい音楽を作りたかったんだ」(ジョン・ライドン自伝『No Irish, No Blacks, No Dogs』1994年)。

1979年11月にリリースされた本作は、まず物理的にも異様だった。

映像フィルムを入れるような直径30センチの金属缶に、45回転のLPレコードが3枚収められていた。各面に10分程度しか収録されていないので、聴き通すためには頻繁にレコードをひっくり返したり、取り替えたりしなければならない、非常に面倒臭い代物だったが、すべては音質を追求したためだった。

本作のサウンドは、ジャー・ウォブルによる超重量級のベースがキモとなっていたため、これをいかに家庭のオーディオで生々しく再現できるようにするかにこだわったのだ。

アルバムを支配するダブ・ベースに、キース・レヴィンの金属的で針のように耳に突き刺さるような音のギターと、ジョン・ライドンの即興的なヴォーカルが絡み、前代未聞の聴きにくさと、中毒性を持った音楽が誕生した。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 アルバトロス

SIDE B

1 メモリーズ
2 スワンレイク

SIDE C

1 ポップトーンズ
2 キャリアリング

SIDE D

1 ソーシャリスト
2 墓場

SIDE E

1 スーツ
2 バッド・ベイビー

SIDE F

1 ノーバーズ
2 シャント
3 ラジオ・4

A1「アルバトロス」は、いつ聴いても耐え難い緊張感と、常軌を逸した演奏に息苦しくなるほどだ。B2「スワンレイク」では、チャイコフスキーの「白鳥の湖」の旋律を捻じ曲げて使い、少し前に亡くなったライドンの母を哀悼している。C1「ポップトーンズ」は誘拐事件を題材にし、C2「キャリアリング」はダブとノイズで混濁した政治批判の曲だ。

ポスト・パンク、インダストリアル、オルタナティヴ・ロックの扉を開き、ボビー・ギレスピーやトム・ヨーク、トレント・レズナーをはじめ、多くのアーティストたちが本作の影響を公言している。

1978年1月、ジョン・ライドンは「ロックは死んだ」と言い残して、セックス・ピストルズを去った。これは、その1年後の作品である。それならこれはロックではないことになるが、わたしにはロックに聴こえる。もしかするとこれは、墓場から蘇った、ロックのゾンビなのかもしれない。

冷たく不穏な、延々と反復的する無機質なグルーヴは、まるでゾンビたちが輪になって、永遠に終わらない盆踊りに興じているかのようだ。

↓ 地響きを立てるベースの反復リフと耳に突き刺さる金属的なギター、ライドンの不穏な即興ヴォーカルによる、10分超えのオープニング・トラック「アルバトロス」。

↓ 「デス・ディスコ」のタイトルでシングルでもリリースされた「スワンレイク」。

(Goro)

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