Primal Scream
“Screamadelica” (1991)
それにしても変わったバンドだと思う。
アルバムごとにコンセプトを変えたり、音楽性を変化させたりというバンドは、ビートルズがその手本を見せて以来、どのバンドも当たり前にやっていることだけれども、しかし変化の振り幅がここまで大きなバンドというのは滅多にいないのではないかと思う。
アルバムによってはまるで別のバンドのようにさえ思える。
年代順に曲を並べたベスト盤が、これほど聴きづらいバンドも他にいないだろう。
1stアルバム『ソニック・フラワー・グルーヴ』は、ザ・バーズのような、サイケ風フォーク・ロックだった。ベスト盤の類にこの時期の曲が選ばれることはほとんどないが、青春丸出しな感じはなかなか良かった。
2ndの『プライマル・スクリーム』で、彼らはローリング・ストーンズやストゥージズのようなガレージ・ロックに挑戦した。当時はそれを時代錯誤と思われたのか、あまり売れなかったらしいが、方向性としては結果的にこれが後々まで生きてくる。
そして3枚目が本作、1991年9月にリリースされた、彼らの最高傑作と誉高い『スクリーマデリカ』である。
【オリジナルCD収録曲】
1 ムーヴィン・オン・アップ
2 スリップ・インサイド・ディス・ハウス
3 ドント・ファイト・イット、フィール・イット
4 ハイヤー・ザン・ザ・サン
5 イナー・フライト
6 カム・トゥゲザー
7 ローデッド
8 ダメージド
9 アイム・カミン・ダウン
10 ハイヤー・ザン・ザ・サン
11 シャイン・ライク・スターズ
当時のイギリスのクラブシーンの流行だったハウス・ミュージックとロックを融合させたアルバムで、全英8位まで上昇し、プライマル・スクリームにとって初めての商業的な成功作となった。
ハウスとロックの融合なんて、それだけならわたしもそんなに聴く気にならないが、そのロック要素はローリング・ストーンズの黄金期を手本にしたような、アメリカ南部の香り漂うものだったのが面白いと思った。サイケデリックの要素もあり、部屋で酔っ払いながらヘッドホンで聴いても楽しめるダンス・ミュージックだった。
冒頭を飾る「ムーヴィン・オン・アップ」、そしてアコースティック・ナンバーの「ダメージド」がわたしは特に好きだ。
他の曲と比べると明らかにロック色が強いのは、この2曲のみプロデューサーがジミー・ミラーだからだろう。ローリング・ストーンズの1968年の『ベガーズ・バンケット』から73年の『山羊の頭のスープ』に至る歴史的名盤5作をプロデュースした、あのジミー・ミラーである。プライマルはストーンズ黄金期のあの感じを出したくて、作った本人にご登場願ったというわけだろう。
一般的にはそれ以外の楽曲、DJのアンドリュー・ウェザオールがプロデュースした「ローデッド」や「カム・トゥゲザー」といったハウス系の楽曲ほうがよく知られているだろう。ただし、35年が経過した今、これを初めて聴くとどう思うのかは、もはやわたしにはよくわからない。わたしはいつ聴いても、あの時代の幸福感が蘇るだけだ。
『スクリーマデリカ』はその唯一無二の印象から、今でもプライマル・スクリームの代表作に挙げられることが多いけれども、これも彼らにとってはひとつの通過点に過ぎなかったのだろう。
キャリアを重ねるとバンドはつまらなくなる、というのはありがちだけれども、彼らの場合はあてはまらないようだ。彼らは毎回、新しいアルバムのたびに新たなチャンレンジを続けている。
それゆえわたしは、いまだに彼らの新譜が出るたびに、今度はいったい何をやらかしたかと、期待でワクワクさせられる。
こんなバンドは他にいない。
↓ MVも、まんまストーンズな「ムーヴィン・オン・アップ」。
↓ 全英16位まで上昇した、バンドにとって初のヒットシングルとなった「ローデッド」。2ndアルバム『プライマル・スクリーム』に収録の「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」のエンディング部分をメインに、DJのアンドリュー・ウェザオールがリミックスした楽曲だ。
(Goro)


