My Bloody Valentine
“Isn’t Anything” (1988)
ダイナソーJr.が90年代米国ロックの着火点なら、同じく90年代の英国ロックのチャッカマン的存在となったのはアイルランド出身のバンド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインだろう。
アイルランドのアーティストというと、ヴァン・モリソン、U2、シン・リジィ、スティッフ・リトル・フィンガーズ、クランベリーズ、ポーグス、シンニード・オコナー、エンヤなど、独特の世界観やサウンド、あるいは歌声を持っていて、おそろしく個性が激しいという印象がある。
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインも、その個性の激しさは強烈だった。
本作は当時英国で最も注目を集めていたインディ・レーベル、クリエイションへ移籍した彼らが1988年11月にリリースした、1stフル・アルバムだ。
本作以前に、1985年にベルリンで録音した7曲入り25分のミニ・アルバムを彼らはリリースしているが、作風は異なり、ポスト・パンクやゴス風のようなものだ。メンバーも中心人物のケヴィン・シールズ(Vo,G)とコルム(D)はいるものの、ビリンダ(Vo,G)とデビー(B)の女子二人はまだいない。
『イズント・エニシング』には、サイケデリック風でドリーミーな、どこか恍惚とした楽曲もあれば、激しいビートと狂暴なノイズギターが荒れ狂う楽曲もある。かなり性格の違う楽曲が混在する、実験的な作風の印象だけれども、ちょうど音楽性が変化していた過渡期だったのかもしれない。ケヴィン・シールズは、この時期にダイナソーJrとソニック・ユースに強い影響を受けたことを告白している。
【オリジナルCD収録曲】
1 Soft As Snow (But Warm Inside)
2 Lose My Breath
3 Cupid Come
4 (When You Wake) You’re Still In A Dream
5 No More Sorry
6 All I Need
7 Feed Me With Your Kiss
8 Sueisfine
9 Several Girls Galore
10 You Never Should
11 Nothing Much To Lose
12 I Can See It (But I Can’t Feel It)
シングル・カットされた「Feed Me With Your Kiss」は英インディ・シングル・チャートの2位まで上昇し、アルバムは英インディ・アルバム・チャートの1位に輝いた。
この独特の浮遊感と、やる気のなさそうな気だるいヴォーカル、さらにそのヴォーカルを完全にかき消すような猛烈なフィードバック・ノイズというスタイルに、当時のわたしは衝撃を受けた。
「歌、ぜんぜん聴こえねーじゃん!」と思った。
でも凄い!と思った。
アヴァンギャルドでありながら、しかしどこかポップでもあるところが革新的だった。こんなバンドは他にいなかった。
その後、90年代に入ると、彼らに触発された若いバンドたちが続々と出てきた。
大音量でギターをかき鳴らし、フィードバック・ノイズを放射しながら、まるで靴を見つめるように下を向いて黙々と演奏するその若いバンドたちはやがて、「シューゲイザー」と呼ばれるようになる。
↓ 独特の浮遊感がある、ポップでエロティックな「Soft As Snow (But Warm Inside)」。
↓ 英インディ・チャート2位のヒットとなった、耳をつんざくガレージ・ロック「Feed Me With Your Kiss」
(Goro)