革命的な破壊力 〜メタリカ『キル・エム・オール』(1983)【最強ロック名盤500】#306

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⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#306
Metallica
“Kill ‘Em All” (1983)

何度聴いても、「衝撃」という以外の言葉が見つからない。日曜の朝から、暑さも吹き飛ぶ。

ラーズ・ウルリッヒの強烈なシンバルの連打で始まるオープニング・トラック「ヒット・ザ・ライツ」から、このバンドの凄まじい殺傷能力に血の気が引く思いだ。直接肉体に突き刺さってくるような音だ。アルバムを聴き終わる頃には全身が、鋭い刃物による切創や、鞭によるみみず腫れや、ハンマーによる打撲傷で生傷だらけになっているのではないかと思わせるほどである。

しかし不思議と、それがまた快感に思えてくるのである。SM的快楽に近いのかもしれない。日曜の朝からナンだけれども。

ヘヴィ・メタルが昔から苦手なわたしが、メタリカにだけはなぜか好感を感じていたが、この1stアルバムを聴いたときに、その理由がよくわかったような気がした。

彼らは王道のHR/HMに影響を受けていると同時に、モーターヘッドやパンクなどの影響も受けているのだ。その相容れないはずの両者を融合させたのがこの彼らの1stアルバムだった。

メタルというとわファンタジックなイメージが強いのだけれども、本作からはそうではない生々しいリアリティを感じる。

本作は1983年7月に、独立系レーベル、メガフォース・レコードからリリースされた。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ヒット・ザ・ライツ
2 ザ・フォー・ホースメン
3 モーターブレス
4 ジャンプ・イン・ザ・ファイアー
5 (アネシージア) プリング・ティース
6 ウィップラッシュ

SIDE B

1 ファントム・ロード
2 ノー・リモース
3 シーク・アンド・デストロイ
4 メタル・ミリティア

録音が立体的で、うるさく感じないうえに、各楽器がクリアに聴き取れる。それぞれが何をやっているか克明に聴こえるのだ。それにしてもよくもまあこんな4人が集まったものだと、あらためて思う。

本作は後のメタリカに比べれば洗練されていないし、荒っぽく、完成度も低いと言えるかもしれないけれども、この闇雲な勢いと、強い意志がみなぎる音、そして凄まじい破壊力は、4人全員が同じ方向を向いて、革命的な一歩を踏み出したことを感じさせる。そして彼らのスタイルは、スラッシュ・メタルと名付けられることになった。

ヴォーカル&ギターのジェイムズ・ヘットフィールドは本作について次のように語っている。「あれはストリート・ファイト版のメタルだった。俺たちは洗練されてなんかいなかったけど、それこそがリアルだった」(クラシック・ロック誌インタビュー 2008年)

また、ドラムのラーズ・ウルリッヒは次のように語っている。「レコードの作り方なんて何も知らなかった。ただ、誰よりもうるさくて、速くて、重いものを作りたかった。それだけだったんだ」(『メタリカ・バック・トゥ・ザ・フロント』2016年)。

曲は基本的にジェイムズとラーズが書いているが、4曲でデイヴ・ムステインの名がクレジットされている。

彼はメタリカの初期メンバーだったギタリストだが、ドラッグとアルコールで度々問題を起こし、レコード・デビュー前に解雇された。彼の替わりに加入したのが、カーク・ハメットだ。解雇されたデイヴ・ムステインは後に、メガデスを結成する。

ちなみにA5「(アネシージア) プリング・ティース」はベースのクリフ・バートンの作だ。インストのベース・ソロ作品だが、わたしはこれがベースであるということにまったく気づかず、初めはギター・ソロだと思って聴いていた。ベースとわかったときにはアッと驚いたものである。

アルバムはインディーズということもあり、当初は全米66位までしか上がらなかったが、その後長く売れ続け、米国だけで450万枚以上を売り上げている。

↓ アルバムのオープニングを飾る「ヒット・ザ・ライツ」。

↓ デビュー・シングルとなった「ウィップラッシュ」。

(Goro)

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