Manic Street Preachers
“The Holy Bible” (1994)
なにしろ、タイトルが『聖書』だからなぁ。
ちょっと気軽には手に取れない感じだ。ジャケットもキモいし。
収録曲の歌詞も相当ハードだ。摂食障害、自己嫌悪、戦争犯罪、性、国家、暴力。
なにしろ、作詞担当のリッチー・エドワーズはこの時期、重度の鬱病、アルコール依存症、自傷行為などに苦しむ、最悪の状態だったらしい。ベーシストのニッキーによれば、他のメンバーがレコーディングしているあいだ、リッチーは、ソファに倒れ込んでうたた寝をしていたという。そして酒を大量に飲み、頻繁に泣いていたらしい。
そんなリッチーの精神状態が本作の歌詞には反映しているという。
もっとも、わたしは英語がわからないので、あまり関係ないけれども。
それでも、わたしはこのアルバムが好きだ。前2作よりもずっと良い。楽曲にも演奏にもキレがある。
本作は1994年8月にリリースされた。全英6位まで上がり、日本のオリコンでも48位まで上昇した。しかし、それ以外の国ではまったくチャート・インしなかった。商業的には最悪の出だしだった。
【オリジナルCD収録曲】
1 イエス
2 アメリカの真実
3 オブ・ウォーキング・アボーション
4 シー・イズ・サファリング
5 苦痛に関する公文書
6 リヴォル
7 4st 7lb (自虐の美)
8 モーソリアム (暗黒の墓碑)
9 ファスター
10 ディス・イズ・イエスタデイ
11 ダイ・イン・ザ・サマータイム
12 インテンス・ハミング・オブ・イーヴィル
13 P.C.P.
一聴して、「おっ、パンクに戻ったな」と思ったものだ。
もともとパンク志向のバンドのくせに、以前の音作りはガンズ&ローゼスみたいなハード・ロック風味で、大向こうウケを狙ったようなサウンドだった。
しかし本作には、感情を盛り上げるようなクサい演出はまったくない。
乾いた音のギターは鋭くザラつき、ベースは今までにないほど強い音で疾走し、ドラムはほとんど生音で、全体的に愛想のカケラもない。「どうだ、カッコいいだろう?」みたいな顔を一切していないのだ。妙に落ち着いていて、淡々としている。
それなのに、曲そのものは驚くほど耳に引っかかってくる。メロディははっきりしているし、テンポもいい。油断していると、つい口ずさみそうになる。歌詞はわからないのに、不穏さだけは伝わってくる。
レコーディングも、エピック・レコードがカリブ海の島バルバドスの録音スタジオを用意したのを「退廃的なロックスターじゃあるまいし」と断り、英ウェールズのとても小さな、安いスタジオで録音したという。
当初の売れ行きの悪さに反して、本作は高い評価を受けた。
NME誌はその年のベスト・アルバム・ランキングで5位に挙げ、メロディー・メーカー誌は2000年に歴代アルバム・トップ100のリストで15位に挙げ、ケラング誌は5年後に同様のリストで10位に挙げた。そして2005年には、BBC ニュースナイトの視聴者のお気に入りのアルバム投票で1位になった。
初期の彼らのハッタリや、ニセモノ臭さみたいなものもそれはそれで面白かったけれども、本作からはハッタリもニセモノ臭さも感じられない。
生々しい、本物のロック・バンドの凛々しい姿があるだけだ。
↓ アルバムのオープニングを飾る「イエス」。
↓ 本作からの最初のシングル・カットとして全英16位まで上昇した「ファスター」。
(Goro)


