スキャンダル女王の魂の絶叫 〜ホール『リヴ・スルー・ディス』(1994)【最強ロック名盤500】#345

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⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#345
Hole
“Live Through This” (1994)

なんとも、悪いタイミングでリリースされたものだ。

まるでコートニー・ラヴの、悲運と薄幸の人生を象徴するかのように。

本作は、1994年4月12日にリリースされた。コートニー・ラヴの夫、カート・コバーンが猟銃自殺を遂げた日から、1週間後のことである。日本でその衝撃的なニュースが報道されてから、わずか3日後のことである。

もちろん、そのずっと前から、本作の発売日は告知されていたのだ。

しかし当時の、まだカートの自殺の動機が解明されていなかった時点では、心無いマスコミはコートニーに同情するどころか疑いの目を向け、われわれファンも、うっすらコートニーとの結婚生活にその原因があったのではないかと、疑いを抱いたものだった。

「あのビッチが」と。なんの根拠もないのに。その時点でわれわれは、カートが重度のヘロイン中毒だったことをまったく知らなかったのだ。

そしてそのタイミングでの、ホールのメジャー・デビュー作のリリースである。まるで夫の悲劇に世界中の耳目が集まっている中でのリリースという、どういう神経しているのだろうと思わずにはいられないタイミングは、われわれを大いに困惑させ、マスコミの狂騒の火に油を注ぐようでもあったのだ。

なのでわたしも当時は、本作にはなんとなく手が伸びなかった。

そういうわけで、わたしは今回初めてこれを聴いたのだ。

今ではそんな、なんの根拠もない疑いをコートニーに対して持っていたことを恥ずかしく思いながら、意外にも、と言っては失礼だけど、なかなかの力作である本作を好感を持って聴いた。

【オリジナルCD収録曲】

1 ヴァイオレット
2 ミス・ワールド
3 プランプ
4 アスキング・フォー・イット
5 ジェニファーズ・ボディ
6 ドール・パーツ
7 クレジット・イン・ザ・ストレート・ワールド
8 ソフター、ソフティスト
9 シー・ウォークス・オン・ミー
10 アイ・シンク・ザット・アイ・ウッド・ダイ
11 ガットレス
12 ロック・スター

我ながらすごくバカな感想だとは思うけれども、聴き始めて真っ先に思ったのは「さすがはカート・コバーンが惚れた女だけのことはあるな」ということだった。

楽曲はコートニーと、ギターのエリック・アーランドソンによって書かれているけれども、当時は、カートが曲作りを手伝ったか、ゴーストライターをやっているのではないかという根も葉もない噂が広まっていたものだ。

それは逆に言うと、カートが書いたのかと思わせるぐらい、意外にも秀逸な楽曲が多いと思われたからに他ならない。わたしも、こんなにしっかり曲を書いてたんだというのが一番意外な印象だったのである。アレンジにも様々な工夫がされ、オリジナリティあふれる仕上がりになっている。

当時のコートニーは「夫に対抗するように、良いメロディを書こうとしていた」と語っているように、カートの存在が影響していたことには間違いないが、それはソングライターとして極めて健全なことだ。とにかく彼らはたくさんの曲を書き続け、最終的に12曲だけを選んだという。

コートニー・ラヴは少女時代、グレイトフル・デッドの信奉者だった父親と心理学者の母親によってアメリカ国内を転々とする、ヒッピーのような暮らしをしていた。思春期になると万引きで逮捕されて、少年鑑別所に入れられ、その後はストリッパーや娼婦として生計を立てていたという。

彼女の歌声は、そんな荒んだ半生の跡を曝け出した、生々しい悲痛な絶叫に聴こえる。本作のタイトルは皮肉にも「これを乗り越えて生きる」という意味だ。

アルバムは全米52位と、チャート・アクションはそれほどではなかったものの、その後1年以上もチャート内にとどまり続け、現在までに180万枚以上を売り上げたという。

わたしと同じように、最初は手が伸びなかったリスナーたちも、徐々に口コミなどでその内容の良さが伝わり、売れ続けたのだろうと思う。発売から30年以上が経って、「意外にもこれは名盤」などと言っているわたしは世界一のろまな、遅れに遅れたリスナーという他ないけれども。

↓ アルバムのオープニングを飾る代表曲「ヴァイオレット」。米オルタナティヴ・チャートの29位まで上昇した。

↓ アルバムの先行シングルとしてリリースされた「ミス・ワールド」。米オルタナティヴ・チャートの13位まで上昇した。

(Goro)