⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
King Crimson
“In The Court of The Crimson King” (1969)
1969年10月、ひっそりとこの世に生み落とされた怪物、キング・クリムゾンの1stアルバムである。
ビートルズの『アビイ・ロード』の半月後にひっそりとリリースされ、まったく宣伝もされていなかったにもかかわらず、全英5位まで上り詰める大ヒットとなった。口コミが、伝染病のように一気に広まったヒットだったという。
キング・クリムゾンは、プログレッシヴ・ロックというジャンルの扉を開いたバンドだ。
プログレッシヴ・ロックとは、3分間のポップソングに飽き足らず、1曲10分や20分はあたりまえ、ジャズやクラシックの要素も取り入れ、変拍子や超絶技巧的な演奏が繰り広げられる難解で前衛的な音楽で、やる方は大変に違いないが、聴いているほうはまあどちらかというと退屈しがちである。
いや、まあ好みの問題ではあるが。
わたしは実のところプログレッシヴ・ロックが法事の読経と同じくらい苦手で、そんな偏見もつい口に出してしまうが、しかしこの『クリムゾン・キングの宮殿』という異形の怪物のような音楽はわたしも好きだ。まったく退屈ではない。
最初に聴いたときは衝撃的だった。
技術的には洗練されているのだろうが、その印象はオランウータンとゴリラの月夜の決闘のような、あるいは求愛のような、なんだかわからない大騒動みたいだった。でも面白い、と思った。
しかし若いわたしは、せっかく楽器が弾けてロックが出来るのに、これではモテないだろうなあ、とも思ったものだ。モテないことをあえてやるなんてことがカルチャーショックでもあり、そこにもわたしは衝撃を受けたのだった。
そしてこのジャケである。
ロック史上最もインパクトの強烈なジャケである。
ジャケは知ってるが中身は聴いたことがなく、聴いてみたいかと言われるとちょっと怯んでしまうアルバム、というアンケートをとったら、このアルバムが1位になるのではないかと思う。
しかしマジメな話、このアルバムがもしこのジャケでなければ、これほど有名な作品にはなってはいなかっただろう。全英5位というセールスも、半分以上はこのジャケのおかげではなかったかと思う。
わたしもやはりこのジャケの物凄さに惹かれ、プログレッシヴ・ロックという敷居の高いジャンルでありながら、一度は聴いてみたいと思ったのだった。
そして実際に聴いてみると、ジャケのせいで上がりに上がっているはずのハードルを、冒頭の「21世紀の精神異常者」は見事に超えてくるのである。この時点でこのアルバムが「名盤」であることを早くも確信するのだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 21世紀の精神異常者
2 風に語りて
3 エピタフ(墓碑銘)
SIDE B
1 ムーンチャイルド
2 クリムゾン・キングの宮殿
A2「風に語りて」の意外な聴きやすさや、A3「エピタフ」の意外な美しさ、B2「クリムゾン・キングの宮殿」の意外な神々しさは、どれも恐ろしいジャケからのギャップもあって、親しみやすい名曲の印象すら与える。最初から最後まで飽きさせない、充実の名盤である。
本作こそはプログレッシヴ・ロックの、原点であり頂点なのだ。
↓ 冒頭を飾る強烈なインパクトの「21世紀の精神異常者」。最近は邦題が「21世紀のスキッツォイド・マン」に変更されている。なんに対する配慮か知らないが、バカなことだと思う。
↓ 幻想的な世界観と叙情的なメロディで代表作のひとつに数えられている「エピタフ」。
なぜか西城秀樹やフォー・リーブスと言った当時の日本のアイドルたちがカバーした。
(Goro)