
Aerosmith
Rag Doll (1987)
70年代後半からのバンド崩壊でおよそ10年ものあいだ低迷し、肉体的にも精神的にも地獄を見たエアロスミスが、メンバーを再結集し、ドラッグを断ち切り、85年に『ダン・ウィズ・ミラーズ』を出すもセールス的に失敗。最後に縋ったのが、前年にボン・ジョヴィのアルバムでメガ・ヒットをかっとばしたプロデューサー、ブルース・フェアバーンだった。
もしかするとエアロにとっては、精神を売り渡すかわりに商業的成功を得る、悪魔との契約のような覚悟だったのかもしれない。
フェアバーンのプロデュースの元で制作されたのが87年の『パーマネント・ヴァケイション』で、70年代のエアロスミスに比べるとずいぶんポップでキャッチーになり、作り込まれた華やかなサウンドで、まさにMTV時代にふさわしいバンドに生まれ変わった。アルバムは全米11位まで上昇する大ヒットとなり、新たなファンを獲得した。
70年代からのエアロのファンは、この新生エアロに困惑したかもしれない。
でもわたしは、エアロが復活するとしたらこの方向性しかない、ベストの選択だったと思う。
時代に合わせたサウンドと言っても、決して80年代を席巻したパーマ頭のライト・メタルみたいな薄っぺらいものではないし、もともとエアロは、「ドリーム・オン」や「スウィート・エモーション」のようなキャッチーな曲も書けるバンドなので、より彼らの資質を開花させ、特長を伸ばすスタイルが完成したのではないかとわたしは思っている。
全米17位のヒットとなった「ラグ・ドール」は『パーマネント・ヴァケイション』の中でもわたしがいちばん好きな曲だ。独特のグルーヴとホーン・セクションもカッコいい、ファンキーで、エレガントで、ワイルドで、ラグタイムでもある、不思議な魅力を持つ曲だ。
(Goro)