⭐️⭐️⭐️
Dinosaur Jr.
“You’re Living All Over Me” (1987)
500枚の最強ロックを選ぶシリーズの開始早々、4枚目にしてこんな薄汚い耳障りなアルバムを出してくるなど正気の沙汰ではないことは重々わかっているつもりなのだが、しかしニルヴァーナから始めてしまったら、彼らの前にその扉を開いた偉大な先輩たちにも早々に登場してもらわなくてはなるまい。
1991年、ニルヴァーナが『ネヴァーマインド』というロック史上最大級の爆弾を投下してロックシーンをひっくり返した、いわゆるオルタナティヴ・ロック革命には、そこに至るまでの導火線の役割を果たした存在があった。
その最初の着火点は遡ること4年前、1987年12月にリリースされた本作と、その3ヶ月後にリリースされたピクシーズの1st『サーファー・ローザ』だったとわたしは思っている。ピクシーズは次回取り上げるとして、今回は米マサチューセッツ州出身の、J・マスシス率いるダイナソーJr.である。
ダイナソーJr.をわたしが知ったのは1989年頃だ。
80年代のメインストリームのロックが嫌いで嫌いで、古い音楽ばかりを聴いていたわたしの興味をリアルタイムのロックへと引き戻すきっかけとなったのが彼らの音楽との出会いだったため、思い入れが深い。そこには商業主義的な華やかさなど一切なく、クソみたいな電子楽器のチャラチャラした音もなく、唖然とするほど殺伐とした、しかしロック本来のリアリティに満ちた強靭な音楽があった。
85年発表の彼らの1stアルバムは、その片鱗は窺えるものの、まだまだ恐竜の赤ちゃんみたいなもので、その狂暴性を発揮するには至っていなかった。
しかし2年後に発表されたこの衝撃の2ndアルバムで、恐竜は耳をつんざくような咆哮と共についに覚醒する。
インディ・レーベルでもあり、きっとこんな無茶苦茶な轟音ギターをうまく録音できるエンジニアなど当時はいなかったのだろう。音は安っぽくてひどいものだが、それがまた恐竜の異形の姿を際立たせているとも言える。
凄まじいエネルギーの放射と狂乱の疾走感は今聴いても痛快だ。ダイナソーJr.は、80年代ロックの閉塞感を打ち破り、突破した、まさに怪物だった。
本作をソニック・ユースが絶賛したことから、ダイナソーJr.は脚光を浴びることになった。
英国でもピクシーズと共に高く評価され、その洗礼を浴びたのがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインだった。
メロディの復権、ノイズを放射する轟音ギター・ロックの復権、特別なメッセージは発しないものの極めて頑固な抵抗の音楽でありながら、乾いたユーモアとポジティヴな哀愁に満ちている愛すべきリアル・ロック。
それらはまさにその後の90年代オルタナティヴ・ロックの手本となったのだった。