“Born to Be Blue”
監督:ロバート・バドロー
主演:イーサン・ホーク
1950年代にウエストコースト・ジャズの代表的存在として、革新的な表現、ルックスの良さ、少しやんちゃで影のある雰囲気などから「ジャズ界のジェームス・ディーン」とも呼ばれて人気を博したトランペッター兼ヴォーカリスト、チェット・ベイカーの苦難の人生を描いた音楽伝記映画。
ただしこの映画は、彼のサクセス・ストーリーや栄光の時代はほとんど描かれず、ヘロイン中毒になり、イタリアで逮捕されて服役後、1970年にドラッグ売買のもつれからの喧嘩で前歯を折られる大怪我をして演奏ができなくなるところから物語は始まる。
人気も仕事もすでに失っていたベイカーは、売れない女優と知り合い、彼女が持っていたワゴン車で車上生活者となる。
やがてケガから回復し、徐々に仕事ができるようになり、ドラッグも断って彼女と結婚することを誓うが、大舞台に復帰することへのプレッシャーと恐怖から再びヘロインに手を出し、彼女も失ってしまう。
わたしはジャズはあまりわからないけど、チェット・ベイカーのアルバムは聴いたことがある。彼の囁くような中性的なヴォーカルは独特の雰囲気があって衝撃的だった。
名盤『チェット・ベイカー・シングス』のジャケも、それこそジェームス・ディーンやエルヴィスみたいな存在感抜群の雰囲気でカッコ良かったものだ。
ポジティヴなイメージがあまりない人で、なんとなくトランペットの音色もくすんだ、哀愁を帯びた音色の印象だ。
原題となった彼の代表曲のタイトル「Born to Be Blue」がたしかに彼のイメージをよく表している。
彼はその後80年代までヨーロッパを拠点に活動したが、58歳のときにアムステルダムのホテルの窓から転落死した。
ロックもジャズもやはり同じようなもので、ミュージシャンにはドラッグが力になったり、助けになることもあるのだろう。
しかしその代償もまた大きい。
人生のすべてがドラッグに振り回され、何人ものミュージシャンが命か、または音楽を奪われた。
こういうのをきっと悪魔の契約と言うんだろうな。
(Goro)