天才と狂気の紙一重 〜プリンス『1999』(1982)【最強ロック名盤500】#300

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【最強ロック名盤500】#300
Prince
“1999” (1982)

マヌケな話だが、30年も前からCDで聴いていたアルバムにも関わらず、これがLPでは2枚組のダブル・アルバムだったということに、今になって気づいたのである。

CDではなぜか「D.M.S.R.」がカットされ、1枚に10曲が収められていた。トータル収録時間が62分ほどだったので、まあよく考えてみればわかりそうなものだが、10曲という少なめの曲数から、ダブル・アルバムだったとはまったく考えてもみなかったのである。

そう言われてみれば、長い曲が多いのだ。

なんで長いかというと、ファンクだからだ。

なんとなく黒人のファンクと白人のロックの中間みたいな立ち位置にいる、ミクスチャーな印象のプリンスだけれども、少なくとも本作の基礎はファンクなのである。

あらためてプリンスを聴いていると、つい先月、星になってしまったばかりの天才、そしてミクスチャー・ロックの元祖であるスライ・ストーンを思い出す。

彼もまた、すべての楽器を自身で演奏し、当時はまだ珍しかったドラム・マシンを使ってみたり、あえてチープな質感の音に加工したり、まるでヒップホップのような斬新なトラックを作ったりした、まさに未来からやってきたような天才だった。

スライは薬物中毒などで70年代半ばで失速し、音楽界から消えてしまったが、本作を聴いていると天才が再び降臨し、スライの意志を継いだミクスチャー・ロックの実験の成果を引き継いでいるようにも聴こえる。

本作はプリンスの5枚目のアルバムで、1982年10月にリリースされた。全米7位と初めてTOP10入りを果たし、英国でも28位まで上昇、全世界で700万枚を売り、プリンスのブレイク作となった初期の代表作だ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 1999(米12位、英2位)
2 リトル・レッド・コルヴェット(米6位、英2位)
3 ディリリアス(米8位)

SIDE B

1 夜のプリテンダー
2 D.M.S.R.

SIDE C

1 オートマティック
2 サムシング・イン・ザ・ウォーター
3 フリー

SIDE D

1 レディ・キャブ・ドライヴァー
2 ニューヨークの反響
3 インターナショナル・ラヴァー

チープな響きのキーボードによるリフ、キラキラと輝くシンセの響き、ドラム・マシンの硬い音など、いかにも80年代サウンドだけれども、なんとなく宅録のような手作り感も感じる。

20世紀の中でも80年代カルチャーというのは、やけに明るくて、えらく楽しげで、妙に幸福そうだけれども、どこか軽薄でインチキくさい「フェイク・ハッピー」な香りが漂う。その絶頂が80年代末のバブル景気だったのだろう。そしてそれは90年代の訪れとともにフェイクがバレて破綻し、夢と散ったのだった。

本作にはそんな80年代らしいフェイクな香りも漂うが、それは表面的なものに過ぎないだろう。

表面は一見オシャレで過激なほどポップだけれども、その中身をじっくり覗いてみれば極めて技術的に精巧であり、しかも実験的かつ異様なものである。プリンスというアーティストは、まるでマッド・サイエンティストのようだと思う。チラリホラリと狂気が見え隠れする。

本作の楽曲は、そんな博士がひとつひとつ手作りで造りあげた愛玩犬ロボットたちのようだ。一見可愛らしいのに、その目の奥を覗くと異様に複雑な混沌が見えて、震えたりもする。

↓ 全米6位の大ヒットとなった「リトル・レッド・コルヴェット」。PVではサーカス団のド派手な団長みたいなプリンスがチラリと見せる、キレのいいダンスにも驚かされたものである。

↓ 初期の代表曲となったタイトル曲「1999」。プリンスの他に、リサ・コールマン、ジル・ジョーンズ、デズ・ディッカーソンといった、ザ・レボリューションのメンバーが交代でリード・ヴォーカルを取っている。

(Goro)

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