The Band
“Music from Big Pink” (1968)
ザ・バンドのファンの方はたいてい良い人ばかりなのできっと怒らないと思うが、わたしは若い頃、これほどダサいバンドもないんじゃないか、と思っていた。
とりあえず見た目は置いておくとしても、まずバンド名がダサい。
完全にスベってると思った。
いや笑わせようとしたわけではないだろうが、変に狙った感じがダサく思えた。
そしてドラマーが歌っている映像を見て、これもなんだかなあ、と思ったものだった。
ドラマーなんて手も足も使って忙しそうなのに、そのうえ歌うのかよ、ほかにだれか歌えないのかよ、などと思っていたのだった。
そして肝心の音楽も、刺激とスピードに飢えた当時の若いパンクなわたしにとってはイライラさせられるもので、「レイドバック」などというよくわからない言葉で誉めそやされるのにもイライラさせられた。
「レイドバック」という音楽用語の意味を調べてみると、ほんの少し遅れ気味のリズムのことを言うのだそうだ。本来の意味はゆったりしたとか、リラックスしたとか、後ろに傾いた、とかだ。
前のめりに疾走するパンクなどとは真逆な音楽ということだ。セックス・ピストルズやクラッシュに夢中だった当時のわたしにはわかるはずもなかったのだ。
その後、いろいろな音楽を聴いていくうちにわたしも成長して、いろいろな世界が開けてきて、ザ・バンドの音楽もだんだん好きになってきた。
そして、ザ・バンドはドラマーだけではなくほぼ全員が歌えるということも後で知った。
さらにザ・バンドという名前にも違和感を感じなくなった頃、もともとはホークスというバンド名を、レコードデビューするときにレコード会社に変えられたもので、メンバーは全然気に入っていなかったということも知った。
ダサいこともカッコ良さの一部だ、ということも年を取るにつれ、だんだんわかってきた。
やはり大人にならないとわからないものはたくさんあるのである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 怒りの涙
2 トゥ・キングダム・カム
3 イン・ア・ステイション
4 カレドニア・ミッション
5 ザ・ウェイト
SIDE B
1 ウィ・キャン・トーク
2 ロング・ブラック・ベール
3 チェスト・フィーバー
4 悲しきスージー
5 火の車
6 アイ・シャル・ビー・リリースト
最初に聴いたときは、コーラスなんて全然ズレているのでヘタクソなのかと思っていたし、どうにもシャキッとしないテンポの鈍さにイライラさせられたけれども、それが当時は斬新な型にハマらないというか、ゆるい「味」を生み出していたということもだいぶ後になってわかってきた。
例えて言うと、それまでのビートルズやバーズを、スーツにネクタイをビシッと決めていたカッコいいロックだとするなら、ザ・バンドの音楽はネクタイとカラーを外し、上着なんか脱いじゃって、シャツの袖をまくったり、裾を出しちゃったりした、それはそれでお洒落な着崩しというか、新しいスタイルだったのである。
だから目ざといミュージシャンたちは我も我もとザ・バンドの着崩しを真似して、レイドバックが大流行することになったのだ。
本作のタイトルに入っている「ビッグ・ピンク」とは、当時ボブ・ディランのバックバンドだった彼らが、ディランと地下室でセッションを行なっていた住居の通称だ。外壁がピンク色をしている建物だったのだ。
録音はニューヨークとロサンゼルスのスタジオで行われたが、ビッグ・ピンクの地下室のようなサウンドを再現することを目指したという。
↓ 史上初のロック映画『イージー・ライダー』で使用されたA5「ザ・ウェイト」は彼らの代表曲となった。美しい夕陽を浴びて2台のバイクが疾走するシーンによく合っていた。
↓ ボブ・ディランが書いたB6「アイ・シャル・ビー・リリースト」は、本人よりもザ・バンドのバージョンの方が有名だ。これもザ・バンドの代表曲として広く知られ、世界各国でカバー・バージョンが生まれている。
(Goro)