世界の終わりの祝宴 〜ザ・フレーミング・リップス『ザ・ソフト・ブレティン』(1999)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#376

B00000JC6C
⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#376
The Flaming Lips
“The Soft Bulletin” (1999)

1999年、人類がノストラダムスの大予言とコンピューターの誤作動(Y2K)に怯えていた頃、米オクラホマ州からやってきた三人の男たちが、また別の「世界の終わり」みたいな音楽を作っていた。

このアルバムが生まれる少し前、バンドの腕利きギタリストは失踪し、ベーシストのアイヴィンスは交通事故に遭い、ドラマーのドロズドは不潔な針でヘロインを射ったために感染症で大事な腕を失いかけていた。

そんな状態で制作された前作『ザイリーカ』は、CD4枚組のアルバムで、その4枚のCDを同時に再生して聴くというとんでもない代物だった。3枚だけで鳴らしても面白いとか、いろんな組み合わせで楽しめるとかいうイカれた謳い文句だったが、そもそも一般家庭にCDを4枚同時に鳴らすようなシステムがあるはずもなく、売れるはずもなかった。

そんな、バンドの危機的状況を乗り越えて作られた本作は、確かに「行くところまで行ききって、突き抜けた」感のある驚くべき作品だ。

ここで歌われているのは、「死」であり、「病」であり、「科学の限界」であり、「人間の限界」であり、「誰も救ってはくれない」という、絶望的なテーマである。

しかし、スピーカーが壊れたのかと思うほど歪んだ爆音ドラムを豪快に轟かせ、安っぽいシンセサイザーを何かのお祝いみたいに派手に響かせ、死にかけみたいなヘロヘロの歌声が泣かせるような美メロを歌うという、世にも奇妙な怪物のような音楽が誕生した。

本作は、ザ・フレーミング・リップスの9枚目のアルバムとして、1999年5月にリリースされた。

【オリジナルCD収録曲】

1 レース・フォー・ザ・プライズ
2 ア・スプーンフル・ウェイズ・ア・トン
3 ザ・スパーク・ザット・ブレッド(ザ・ソフテスト・ブレット・エヴァー・ショット)
4 ザ・スパイダーバイト・ソング
5 バギン(ザ・バズ・オブ・ラヴ・イズ・ビジー・バギン・ユー)
6 ホワット・イン・ザ・ライト?(アン・アンテステッド・ハイパシーシス・・・)
7 ザ・オブザーバー
8 ウェイティング・フォー・ア・スーパーマン(イズ・イット・ゲッティン・ヘヴィー?)
9 サドンリー・エヴリシング・ハズ・チェンジド(デス・アンザイエティ・・・)
10 ザ・ガッシュ(バトル・ヒム・フォー・・・)
11 フィーリング・ユアセルフ・ディスインテグレイト
12 スリーピング・オン・ザ・ルーフ(イワサープト・フロム・・・)
13 レース・フォー・ザ・プライズ(サクリファイス・オブ・ザ・ニュー・サイエンティスツ)
14 ウェイティング・フォー・ア・スーパーマン

本作はドラマーのスティーヴン・ドロズドがほぼすべての楽器を担当するなど、制作の中心的役割を担っている。

生ドラムはほぼ使わず、サンプリングとループを主体にしてビートを作り、ストリングスとブラスを多重録音で分厚く重ね、意図的に歪ませて、ハイファイとローファイを混在させるという、考え得る限り最悪と思われる、耳に馴染みにくいサウンドを構築している。

しかしあらためて聴いてみると、その明らかに「やりすぎ」な感じであるのにも関わらず、不思議と重たくはないのだ。むしろ妙に軽い。その軽さが、どこか信用できない感じで、今にもガラガラグワシャーンと音を立てて崩れ落ちそうな不安定さがある。それが、そこはかとなく全体に通底する不安や物哀しさ、そして一瞬の煌めきのような美しさを醸し出しているように思う。

1999年という、科学と技術の進歩によって人類の文明が頂点に達した20世紀の、閉店セールのような物哀しい賑やかさ、壮大で感動的でありながら、脆くて壊れやすい美しさを描き出した、ほとんど奇跡のような作品である。

↓ アルバムの顔となった代表曲「レース・フォー・ザ・プライズ」。二人の科学者が人類のために競い合いながら健康を犠牲にし、自滅していく歌だ。

↓ 人類は万策尽きて救いを待ってるけれど、スーパーマンは来ないし、来たとしても何も解決できないだろうと歌う「ウェイティング・フォー・ア・スーパーマン」。

(Goro)