
⭐️⭐️⭐️
Lenny Kravitz
“Let Love Rule” (1989)
SNSには有名人や権力者を批判・罵倒する投稿が溢れているけれども、その理由や根拠はとよく読んでみるとと、実際はほとんど何も知らなかったりする。
政治家の本分である政策や思想信条には興味はなく、そのちょっとした言動を切り取って難癖をつける報道を鵜呑みにしただけだったり、インフルエンサーの投稿やテレビのコメンテーターが言っていたことに影響を受けただけだったりする。
わたしは1990年当時、レニー・クラヴィッツが嫌いで、熱心に聴いている人を蔑んだ目で見ていたものである。
しかし今思い出してみても、レニー・クラヴィッツの何が嫌いだっのか、さっぱり思い出せない。
アルバムは2ndを1回か2回聴いたぐらいで、ろくに聴いていなかったので、きっとわたしも、音楽雑誌の記事あたりの批判に影響されたものに違いない。馬鹿なやつだ。
しかし馬鹿が影響を受けるほどに、デビュー当時のレニー・クラヴィッツには、賛否両論が渦巻いていた。
彼は、熱愛してやまない60年代ロックの質感を再現すべく、当時の楽器や機材を揃えてそのサウンドを再現し、まるでビートルズやスライ・ストーンやジミ・ヘンドリックスが書いたかのような楽曲を書いた。
「60年代ロックのパクリだ」「時代錯誤だ」というのが当時の主だった批判だった。
しかし、別に曲を丸パクリしているわけではない。たしかに特異な存在ではあったけれども、その後、サンプリングや、過去のロックのスタイルを取り入れる方法論などが当たり前になるにつれ、むしろ先駆者だったと言えなくもない。レニー・クラヴィッツもまた自分の偏愛に徹底的にこだわって、独自のスタイルを完成させただけのことだったのだ。
本作は1989年9月にヴァージン・レコードからリリースされた、1stアルバムである。
【オリジナルCD収録曲】
1 シッティング・オン・トップ・オブ・ザ・ワールド
2 レット・ラヴ・ルール
3 フリーダム・トレイン
4 マイ・プレシャス・ラブ
5 アイ・ビルド・ディス・ガーデン・フォー・アス
6 フィア
7 ダズ・エニィバディ・アウト・ゼア・イーヴン・ケア
8 ミスター・キャブ・ドライバー
9 ローズマリー
10 ビィ
11 ブルース・フォー・シスター・サムワン
12 エンプティ・ハンズ
13 フラワー・チャイルド
本作をレニー・クラヴィッツは、ストリングス以外の楽器のほぼすべてを自身で演奏し、プロデューサーもバンドも使わずに独力でレコーディングしている。
電子楽器や最新の機材を一切使わず、アナクロなアナログ機材から出てくる音は、わたしのような者には心地よく響く。媚びたところの少しもない歌声は、売れることよりも、強いこだわりと確信だけが感じられて好感が持てる。
まあ、だから売れなかったんだろうけど。
本作からヒット・シングルは生まれず、アルバムも米61位、全英56位と商業的な成功は得られなかった。
しかし、時代錯誤に思われた彼の音楽は、ほぼ同時期にイギリスでデビューしたザ・ストーン・ローゼスの60年代のサイケデリック・ロックのような音楽性の復活とも共鳴し、80年代ロックが終わり、90年代ロックが始まる中で、時代の中心へと移行していった。
↓ 1stシングルとなった「レット・ラヴ・ルール」。全米89位とヒットにはならなかったが、まるでビートルズのような楽曲は、賛否両論ながら注目を集めた。
↓ シングル・カットされた「ミスター・キャブ・ドライバー」。人種差別についてユーモアを込めて歌われている曲だ。実際にタクシードライバーと口論になった直後に書いたという。
(Goro)

